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29_津のお米の味と品質を裏付ける生育診断・環境評価手法の開発と実践

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

つじ農園では、津市大里地区の気象・水・土壌の特性を生かした栽培方法によるオリジナルブランド米「たらふく」を生産・販売し、小規模ながら好評を博している。

当地域も例外なく、農地集約化による生産効率化に取り組んでいる。このことはベテラン農家の稲作からの離脱を意味する。若手農家はベテランの長い経験と勘に裏付けられた栽培の勘どころを継承しなければならない。しかしながら、ベテランの知見は数値化/一般言語化されておらず、すでに失われたものもあるため、若手農家が理解できる形で引き継ぎを行うことが喫緊の課題である。

ベテラン農家の技術を引き継ぎ、この地区でさらに米の品質向上と付加価値を高めるために必要なことは二つある。一つは、地域の特徴や歴史的背景を考慮した科学的根拠に基づく生育診断を確立すること。もう一つはその生育診断をベテラン農家の知見とすりあわせることである。そのためには、生育ムラの特定とその原因の調査を地理地勢とともに評価し議論する必要がある。

このように、今後この地区でのさらなる米の品質向上と、付加価値を高める上で、科学的な根拠に基づく生育診断の必要性から、本学教員(渡辺、飯島)との会合を重ね、今回の事業を提案するに至った。

特に注目するのは、第1に地理的条件(微地形、水路からの距離、土壌の不均質性など)の差異が適切な水稲栽培管理を判断する指標となるか、お米の品質とどのように相関するか、という点であり、第2に、経年的に影響を与えるワインでいうテロワール的な特長(場所、気候、土壌そのものがお米の味・品質に個性を与える)を有するか、それを科学的な視点で語ることができるようになるか、という点にある。

本事業では、そのFeasibility Studyとして、無人航空機(UAV: Unmanned Aerial Vehicle)用いた近接リモートセンシングと分光放射観測、自動気象観測、土壌分析、お米の食味分析について基礎となる方法を試行し、その有効性を検討して、今後の技術開発研究へとつなげていくことを目的としている。

2.活動する地域と内容

地域:津市大里睦合町 慣行区と無農薬区の水田稲作圃場

内容:近接リモートセンシグによる水田稲作地の生育診断方法の開発。UAVを用いた生長量、植生指標、圃場地形等のリモートセンシング観測と地理情報解析。地理的条件による稲作の分光放射観測、気象観測、土壌の養分と物理性の分析、お米の食味の分布に関する解析を行う。

3.期待される活動成果等 

第1の目的に対応して、生育の早い段階で水田圃場内または圃場間に空間的な生育のムラが存在するかを把握し、それが土壌の養分や排水状況とどのように対応するかの関係を定量的に示す。費用対効果の面から、生育状況の空間的には把握には近年技術開発が著しいUAVによる近接リモートセンシング技術(数十m上空から、圃場の可視・近赤外画像を撮影する技術)を利用し、生育ムラの現れた箇所を特定した上で、土壌のサンプルを取得して分析を行い、その後収穫された米の食味などの評価を重ねることで、その対応関係を明らかにする。この一連の手法の妥当性を検討する。

第2に、圃場間または、圃場内で空間的な生育ムラが測定された場合、それらの地勢や土壌・水文条件が引き続く影響を翌年度以降も与える可能性があるかを、今後モニタリングするための基礎情報とする。これらの情報は、その圃場が整備されてきた履歴(暗渠の状況や施肥の効果)を反映している可能性があり、長期的にどのように管理、改良していくかを判断する重要な材料となる。

平成29年度活動状況報告書