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28_「多文化共生を支援するワークプレイスの課題を探る:接触場面における情報共有とリスク回避のためのコミュニケーション行動調査」

【活動の概要】

1.本活動の背景、必要性、目的
 近年、医療現場や企業活動などで、異なる職種や技能をもつ人々の間で生じる誤解の原因解明のため、情報共有やリスク回避のためのコミュニケーション活動の研究が進められているという背景がある。三重県の養鶏場経営という地域産業を支える現場においても、外国人労働者を雇用することで生じる摩擦にどう対応するかが課題となっている。H25〜26年度にかけて実施した調査では、外国人研修生を雇用することで生じる摩擦の要因は、研修生の日本語コミュニケーション能力だけではなく、雇用者と研修生双方の情報伝達方法や異文化の受容において認識のずれがあり、継続的な分析と考察の必要性がある。
 したがって、本活動の目的は、H25−26年度の2年間の調査に基づき、実証的な方法で分析と考察を行い、地域のワークプレイス、とくに協働作業現場で、母語が日本語ではない外国人が日本人との接触場面で直面する言語行動の問題を「留意の違い」として明らかにすることである。さらに、この成果を地域の多文化共生への支援に結びつける方策を検討する。

2.活動内容
 H25〜26年度にかけて行った調査で得られたデータのうち、まず次の4種類について、詳細な分析をおこなう:(1)屋内での作業場面の録画3本、(2)研修生の半構造化インタビュー4本、(3)日本人従業員の半構造化インタビュー、並びに、(4)調査時の聞き取りメモである。分析では、まず、(3)と(4)より、日本人側から中国人側に対して留意している問題を抽出して①作業内容、②日本語学習、③生活全般に分類する。次に、この問題に対応する中国人側の発話を(2)から特定し、同一の問題に対する双方の留意の仕方の違いを比較する(6月〜8月)。本活動成果を国際学会で報告する(9月)。この後、学会発表での議論等をもとに、問題点を整理し、追加の分析や考察をおこなう(10〜12月)。さらにこの時点で、共同実施者にフィードバックして、職場での共通理解や問題解決のための方策を共同で検討する(1~2月)。最後に活動成果の振り返りと報告書を作成する(3月)。

3.期待される研究成果等
 データ分析の結果、日本人側が留意する問題のほとんどについて、研修生側の認識が乏しく、その問題に対する留意の程度に日本人とのずれが観察された。活動成果としては(1)制度上の大きな問題や技術習得への障害は発生していないために、問題に対する異なる留意にも双方が気づかなかったり、問題が潜在化されたり、調整を諦めたりする実態をデータ分析により、具体的に示すことができる。(2)本活動成果は国際学会で報告されるため、問題の解決や軽減の可能性を探るための実質的な方策を議論する機会が得られ、国際的な視点からの意見交換を行うことが期待できる。(3)同時に、共同実施者にフィードバックして、職場でお互いが直面している多くの摩擦やストレス要因についての認識を深め、どのような情報共有と問題解決の手がかりが今後必要となるかを検討できる。(4)さらに、この成果を1事例として、地域の多文化共生への支援に結びつける方策を検討できる。

平成28年度活動状況報告書