clear
27_イブキジャコウソウによる鳥羽市菅島の採石場緑化

【活動の概要】

1.本活動の背景、必要性、目的
 鳥羽市にある菅島は高ニッケルとマグネシウムによる特殊な土壌環境を有しており、独特の植物相や固有種および希少植物の存在が確認されている。一方、この地域では100年にわたり蛇紋岩およびカンラン岩の採石が行われ、多くの希少な植物が失われたほか、事業がもたらした環境変化によって残った植物も絶滅の危機に面している。
 採石事業後は法律に基づいて緑化が行われなくてはならず、また破壊された自然環境が鳥羽市の観光業に大きなマイナスとなっている現状がある。鳥羽市や菅島町内会、自然保護関連のNPO等による緑化の促進が強く求められているものの、菅島はその特殊な土壌環境によって一般的な緑化が困難であり、現在対処療法的に行われている苗木の移植も、植物の生長が著しく遅いため、その成果が見られていない。採石は2020年を目処に終了予定であるが、このままではその後も破壊された自然のみが残される可能性が高いと考えられる。採石活動による環境の変化が菅島の植生に不可逆的な影響を与える前に、「菅島の植物による効果的な緑化」を計る必要が焦眉の急となっている。
 申請者は土壌学・植物栄養学を担当する教員として、植物の重金属耐性や環境適応に関する研究を行っており、菅島の植物の金属特性についても調査を行っている(Mizuno and Kirihata, 2015)。一方、菅島の岩場に自生するイブキジャコウソウ(タイムの日本原産種)が、現在緑化用の地被植物(カバーグラウンド植物)として販売、利用されており、また岩手県農業技術センターでその栽培方法が確立されていることを知るに至り、「菅島原産のイブキジャコウソウで採石場の緑化が可能である」という着想を得るに至った。
 広大な採石場を実際に緑化するためには膨大な量の苗を恒常的に生産する必要があり、さらに厳しい土壌環境に適応できるように改良を加える必要がある。本研究の目的は菅島産イブキジャコウソウによる緑化能力を明らかにし、可及的すみやかなる採石場の緑化を目的とした育苗および栽培方法の基礎的情報を得ることであり、最終的に破壊された自然環境の回復を目指すものである。

2.活動内容
 (1)鳥羽市および菅島町内会との連携体制
 本研究は申請者の研究室において今年度より開始するものであり、今年3月に鳥羽市役所および菅島町内会長との面談を行い、研究実施への協力を得ている。また採石を行う鶴田産業(株)とは電話にて栽培実験の開始についての連絡と実験許可エリアについての取り決めを行った。なお、菅島町内会からの要望により、初期の移植試験は菅島の自衛隊機墜落事故慰霊碑の周辺で行い、順次採石場エリアの緑化試験を行っていく。
 (2)菅島産イブキジャコウソウの育苗方法の確立
 カバーグラウンド植物としてのイブキジャコウソウの栽培方法はすでに岩手県農業技術センターで確立されているため、菅島産のものについても本手法に従って栽培を行う。なお5月7日までに2回に渡り萌芽の採取を行い、現在2,000株程度の栽培を行っている。
 (3)菅島での移植と成長率、地被率の解析
 大学でジャコウソウ苗は1,2,3および6ヶ月生育した苗を順次菅島へ持ち運び、岩場専用の定植穴あけ器を用いて移植を行う。本試験では幼若苗と成熟植物体での高ニッケル土壌への適応能力の違いについて検証するほか、移植間隔を20cmや50cmなどに設定し、最も効果的な緑化率を得られる栽培間隔を調査する。

→平成27年度活動状況報告書