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27_郷土資料館を活かした文化交流事業~勢和プロジェクト~

【活動の概要】

1.本活動の背景、必要性、目的
 多気郡の旧勢和村(現多気町)は、日本最古の水銀鉱山跡や弘法大師ゆかりの丹生大師が所在し、江戸時代の代表的な本草学者・野呂元丈を生み、国の登録記念物に指定された立梅用水が流れるなど、歴史文化が豊かな地である。山間部の自然環境を活かした茶栽培や地元食材を用いたレストランを営む農業法人の活動などが注目を集め、地元住民による観光客案内や文化事業も、熱心に取り組まれている。
 一方で、2006年の市町村合併によって多気町の一部となってからは、行政機構のみならず文化施設の中心も旧多気町に移り、旧勢和村については対応が手薄になっている。象徴的な問題が、旧勢和村時代には文化活動の中核であった郷土資料館の運営である。管理一元化のため同館には専任の担当者が居なくなり、常設展示はほぼそのまま放置され、新しい情報が発信されていない。同館の収蔵庫には、勢和村史編纂時に収集した貴重な資料が大量に保管されるが、全く活用されることなく、地元の郷土史家たちですら、その存在を知らない。
 三重大学大学院人文社会科学研究科で2001年に開設した授業科目「三重の文化と社会」は、多様な専門を持つ教員・大学院生が三重県下の特定の市町に入り、学術的な研究を通して地域貢献を図る目的で始めたものだが、2014年度には多気町を対象に行った。塚本はゼミの大学院生2名と共に勢和郷土資料館所蔵文書を調査し、研究のとりまとめの指導を行った。成果報告会は、地元住民50名程の参加を得て大変好評であったが、これは郷土史に関心を持ち、当地の歴史文化の発信をしている方々が、新しい情報の発掘を強く望んでいるためである。今後も引き続き同様の活動を望む声もあがった。また調査過程で、郷土資料館を実質的に管理する塩谷弘子氏や、勢和語り部友の会の皆さんから種々の有益な情報を頂き、大学院教育の面でも地域史の方法論を学び、社会的経験を積むという効果が大きかった。
 本事業は、こうした活動を前提とし、更なる文化事業の構築発展を目指し、郷土資料館の所蔵資料調査を通して、大学・行政・市民との文化交流を図るものである。
 なお、付言すれば、「合併された」旧小規模町村の文化施設が抱える課題は、旧勢和村に限らず現在の日本社会に普遍的な問題である。本事業は、その意味でも「地域創生」のひとつのサンプル事業になりうると考えている。

2.活動内容
 勢和郷土資料館の収蔵庫に架蔵されている未整理資料を対象として、三重大側では関係教員と大学院生、学部学生が参加し、多気町側は郷土資料館の職員及び勢和語り部友の会会員、地元の有志の皆さんと一緒に調査を行う。調査内容は、郷土資料館の担当者(塩谷弘子氏)と相談しながら決めるが、勢和の丹生地区にある浄土宗の名刹・西導寺の修理を施した際の襖の下張り文書が未整理の状態で残されており、これを主な調査対象にしたいと考えている。襖の下張りには日常生活で使われた古文書が用いられるため、従来知られていない歴史を明らかにできる可能性が大きい。また、襖の状態のままのものもあり、古文書の解読に不慣れな地元の方も作業に参加することが可能である。他には立梅用水に関する西村家文書、薬業を営んだ岡山家の書状類も対象候補である。
 古文書は、保存の手だてを検討した後、調査カードを取り、デジタル写真撮影を施す。これにより、大学に戻ってからも学生・大学院生の訓練がてら解読・調査を行うことが可能となる。学生・大学院生全員に興味を持った古文書について説明を加え、地元の方々に発表し、簡単なレポートを作成する。なお、教員はこれらの作業を指導するとともに、成果をとりまとめる。勢和図書館で公開の報告会を開催することも検討する。

→平成27年度活動状況報告書