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30_地域の農業水利施設管理の高度化と標準化言語を利用した汎用化(継続2年目)

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

近年,三重県をはじめ全国の農業従事者は高齢化と減少が予想され,農地に水を送る農業水利施設の維持管理が難しくなります。人員不足のために,堰の「開け」「閉め」の操作を適正に行わないと,水が必要な水田に水が届かず,また逆に水路が溢れて無駄水が流れてしまいます。このような「管理操作」は勘やノウハウあるいはローカルルールであり,マニュアル化されていない情報です。これらは「暗黙知」と言われ,地域の農業水利施設の維持管理では大変重要です。これらの水管理は少数の特定の人が長年にわたり担当される場合が多く,施設管理者の高齢化や引退によって「管理作業」の情報は容易に失われてしまいます。これらの「暗黙知」を「形式知」にするために,地理情報システム(GIS)を活用して,地図上に技術情報を記録することで,維持管理技術の「形式知」化を図り,今後の農業水利施設を高度化や省力化することにより施設のさらなる活用が見込まれます。本活動では,病院のカルテ情報管理の仕組みを流用して「形式知」を構築します。具体的には,コンクリート水路などのハード施設を人間に見立て,健康診断歴,病歴,投薬歴,治療歴などを記録するカルテをつくるイメージです。

農地に必要な水を配る水管理業務は,土地改良区が担っています。土地改良区は農業従事者が耕作面積に応じた負担金を支払うことにより,実際の水管理業務を遂行しています。農業水利施設の維持管理は,現場で経験を重ねることにより培われてきた技術に支えられています。それらは,人から人へ継承され現代に引き継がれてきました。しかし,現在,施設そのものの老朽化に加え,組合員の減少,高齢化により,今までのような管理業務の遂行が難しくなっています。

そこで,本申請では水管理に関する情報の継承や日々の管理業務の効率化をはかるシステムの開発と運用ノウハウの蓄積を目的とします。

2.活動する地域と内容

三重県多気町勢和地域にある立梅用水および鈴鹿市の白江野土地改良区を対象地域として考えています。

立梅用水地区は世界かんがい遺産にも登録されている歴史ある地域です。一方で,多くの大学の研究フィールドとして活用されており,大学研究への理解が深い地域でもあります。昨年度採択されたこの活動では,国研農研機構の農業工学部門が作成している「農業水利施設の管理情報継承のためのGISデータベース」(VIMS)を用いて,どこをチェック箇所とするか,カルテになにを記録するか,記録することが決まればどのように計測するか,など基本となるベースマップの作成を行いました。立梅用水は中山間に位置し,全長30kmもの広大な水路網を管理しているため,年間に100件以上の補修箇所が発生しています。組合員の減少,高齢化により,今までのような管理業務の遂行が難しくなっている立梅用水において,水利施設の管理に関する様々な情報を地図上に入力し,情報の継承や日々の管理業務の効率化ができるのか実証実験を行っています。1年間の運用で水管理業務の軽減化に一定の効果が見られるようになりましたが,現場のニーズに応じたさらなるシステムの改良を行い,水管理情報の継承や日々の管理業務の効率化に役立てるシステムの開発を進めます。

また,白子・江島・野町地区の旧3か村の頭文字を取った鈴鹿市の白江野土地改良区は,平野町の取水口から幹線の延長約10.8km,受益区域は205.5haにのぼります。都市近郊でありながら,立梅用水同様,組合員の減少,高齢化により,水管理業務の遂行が難しくなっているという問題を抱えています。昨年度は既存農業水利システムのICT化を実施したノウハウを流用しながら,汎用性の高い安価な農業水利システムの構築に向けた活動を行い,揚水機やゲートなどICT対応が済んだ農業水利施設の制御がスマートフォン上でできるようになりました。しかし,都市化の進展とともに受益面積が減少し,周辺に工場も多く建設されたため白江野土地改良区は都市からの排水機能を受け持つようになっていますが,大雨の時に水路から水が溢れないように水利施設を管理するのに苦慮しています。今年度は水路内の水位監視とゲート操作を支援する機能を追加する予定です。

3.期待される活動成果等

農業用水も地域の中においては,管理が経験的で,実際にどこでどれだけ使われているか不明な点が多く,多くの無駄水が生まれている可能性があります。これらの経験的な部分をGIS情報で明らかにすることでより,高度な水管理を少人数で行うことが可能となり,これからの農村地域の農業用水維持管理の新たな一歩となると考えられます。すなわち,この種のツールを駆使することによって,経験の浅い就農者であっても,地域を支えていく担い手の一員に育っていく可能性が確かなものになっていきます。

また,地域での降雨や貯水などの状況も地域全体の様子が総合的に見えてくることから,山腹を流れる農業用水路や溜池などが持っている洪水緩和機能など新たな機能の発見やその有効性にもつながる可能性があります。

さらに,農業水利システムをICT対応とすることにより,毎年,各地で農家の方が大雨の際に田畑や水路の監視に出かけて命を落としているその事故件数を確実に軽減できます。

→平成30年度活動状況報告書