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30_津のお米の味と品質を裏付ける生育診断・環境評価手法の開発と実践(継続2年目)

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

つじ農園では,津市大里地区の気象・水・土壌の特性を生かした栽培方法によるオリジナルブランド米「たらふく」を生産・販売し,小規模ながら好評を博している。

当地域も例外なく,農地集約化による生産効率化に取り組んでいる。このことはベテラン農家の稲作からの離脱を意味する。若手・後継農家はベテランの長い経験と勘に裏付けられた栽培の勘どころを継承しつつ,農産品の品質向上に取り組まなければならない。しかしながら,ベテランの知見は数値化/一般言語化されておらず,すでに失われたものもあるため,若手農家が理解できる形で引き継ぎを行うことが喫緊の課題である。

ベテラン農家の技術を引き継ぎ,この地区でさらに米の品質向上と付加価値を高めるために必要なことは二つある。一つは,地域の特徴や歴史的背景を考慮した科学的根拠に基づく生育診断を確立すること。もう一つはその生育診断をベテラン農家の知見とすりあわせることである。そのためには,生育ムラの特定とその原因の調査を地理地勢とともに評価し議論する必要がある。

このように,今後この地区でのさらなる米の品質向上と,付加価値を高める上で,科学的な根拠に基づく生育診断の必要性から,本学教員(渡辺,飯島)との会合を重ね,昨年度から事業を提案・実施を開始している。

特に注目するのは,地理的条件(微地形,水路からの距離,土壌の不均質性など)の差異が適切な水稲栽培管理を判断する指標となるか,お米の品質とどのように相関するか,という点であり,さらには,経年的に影響を与えるワインでいうテロワール的な特長(場所,気候,土壌そのものがお米の味・品質に個性を与える)を有するか,それを科学的な視点で語ることができるようになるか,という点にある。

本事業では,その実用研究として,無人航空機(UAV: Unmanned Aerial Vehicle)を用いた近接リモートセンシングと分光放射観測,自動気象観測,土壌分析,お米の食味分析について基礎となる方法を試行し,その有効性を検討して,今後の技術開発研究へとつなげていくことを目的としている。

昨年度までの活動で,当該圃場には,前年秋の土づくりの段階で撒いた有機物資材(米ぬか)のムラがそのまま田植え以降の水稲の生育ムラとして反映されていることが,UAVと地上計測による植生指標や,土壌成分調査から確認された。これは,より均質な水稲の生産を進めるためには,土づくりの段階からムラをなくす圃場管理を行う必要を示唆している。これらの成果に基づいて,つじ農園では,すでに秋~冬の土づくりを行っている。したがって今年度は,引き続く水稲生育状況の測定を行って,経年的な変化を明らかにし,本手法の生育管理の有効性をさらに検討・開発することを第1の目的とする。具体的には,新たにブランド米「結びの神」を生産予定の圃場で,同様の観測・解析を行い,本地域におけるUAVによる植生指数情報とお米のタンパク質含量との関係を明らかにする。さらに今年度は,津市農林水産政策課の担当者も参画していただき,就農支援や農産物の6次産業化の視点から,本研究成果の波及効果を検討することを第2の目的とする。津市が実施している農政情報の提供から本研究手法による生育管理方法の今後の波及性の検討を開始するほか,津市内・ミエテラスなどでの津市農業振興関連イベントにおいて本事業を紹介し,様々な対象者(農業従事者,消費者など)と意見交換を行う。

2.活動する地域と内容

地域:津市大里睦合町 慣行区と無農薬区の水田稲作圃場

内容:近接リモートセンシグによる水田稲作地の生育診断方法の開発。UAVを用いた生長量,植生指標,圃場地形等のリモートセンシング観測と地理情報解析。地理的条件による稲作の分光放射観測,気象観測,土壌の養分と物理性の分析を行い,生育前後の違いや収穫されたお米の食味の分布に関する解析を行う。稲作に関する耕作ならびにモニタリングの年間行程をクラウドで共有するシステムを構築し,生育管理の見える化を図る。年度内に津市が主催する農業振興イベント(ミエテラスや「津産津消」イベントなど)の機会を利用して,研究成果を明示した外部発信と意見交換を行う。

3.期待される活動成果等

第1の目的に対応して,生育の早い段階で水田圃場内または圃場間に空間的な生育のムラが存在するかを把握し,それが土壌の養分や排水状況とどのように対応するかの関係を定量的に示す。費用対効果の面から,生育状況の空間的には把握には近年技術開発が著しいUAVによる近接リモートセンシング技術(数十m上空から,圃場の可視・近赤外画像を撮影する技術)を利用し,生育ムラの現れた箇所を特定した上で,土壌のサンプルを取得して分析を行い,その後収穫された米の食味などの評価を重ねることで,その対応関係を明らかにする。この一連の手法の妥当性を検討する。

さらに,圃場間または,圃場内で空間的な生育ムラが測定された場合,それらの地勢や土壌・水文条件が引き続く影響を翌年度以降も与える可能性があるかを,今後モニタリングするための基礎情報とする。これらの情報は,その圃場が整備されてきた履歴(暗渠の状況や施肥の効果)を反映している可能性があり,長期的にどのように管理,改良していくかを判断する重要な材料となる。これらの生産・管理情報をクラウド上で共有するシステムを構築し,より機動的な検討と改良が行える体制を構築する。

また,第2の目的においては,津市の農業振興担当との連携によって,各所のイベントの機会を利用して津産お米の紹介に生育管理の研究成果を合わせてアピールする。例えば新規・若手の農業従事者および消費者との意見交換から,本事業の関心を広めると同時に,波及性・適用可能性をより具体的に検討する。

→平成30年度活動状況報告書