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29_「地域でのアクションリサーチで、健康増進を改善する」

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

現在、日本の高齢者人口は約25%となり、2050年には全人口の40%に達すると予測されている。高齢者の数が増加するにつれて、社会的および経済的負担も増加する。このような状況において日本は介護保険を維持できるのか、世界においても注視されている。日本の高齢者に対する介護・医療を高レベルにとどめるためには、単に高齢化のみならず、フレイルや慢性疾患において対策を確立することが重要となってくる。

そのために医療のみならず保健活動、特に健康増進という観点からの介入に焦点を当てるべきである。すなわち対象を定め、住民の生活習慣を健康に関連づけ、介入の目標を達成する可能性のあるエビデンスに基づくべきである。 しかしながら、資源の制約のために、すべての介入がエビデンスに基づかせるわけにはいかない。

しかし健康の促進と予防には莫大な努力と資源が必要となる。ほとんどの場合、その活動はエビデンスというよりはトップダウンアプローチを用いることになる。しかしながら、健康増進は、相互作用する複数の因子を伴う複雑な環境で起こり、介入は再現性が制限されることも多い。この活動が再現性困難なことが、これを実施する上で問題となる。実は心理社会的背景と地域住民の声を考慮するほうが、活動をより効果的に実施できることが示されている。 したがって、健康増進活動等の企画、実行、評価のすべてにおいて地域メンバーの関与が重要と考えられる。

現在の医学研究は、研究参加者を「研究対象」といっているが、実際の研究は研究参加者とともに生み出すのではなく、それを参加者に適応しているだけである。 保健政策に関しても、多くはトップ・ダウンが政策の決定および実施に使用される。 地域からのものであると言われる証拠にしても、住民参加型で地域に関与するのではなく、「実験室」設定し、その地域内のみで行われるかもしれない。 その結果、実際には地域のニーズが完全に反映されていなかったため、実施時に参加や持続可能性が低く、そのためにいくつかの政策が問題を抱えていることがある。研究実施と地域のニーズとの格差を最小限にするためには、地域でのアクションリサーチ(community-based participatory research;CBPR)が必要である。

以上をふまえ、本研究の目的の一つは、名張市における現在の利点、課題、健康増進のニーズを評価することにある。 二つめの目的は、地域のメンバーが重要かつ実行可能であると考えられる健康促進活動の方法を設計すること。三つめの目的は、適切な健康促進活動を適切に実施すること。 最後に、これらの活動が人々の健康と健康に関連する行動に及ぼす影響を評価する。 これらすべての活動に、地域の発展とエンパワーメントを目指して、地域住民とステークホルダーが積極的に協力することが望まれる。

2.活動する地域と内容

名張市の人口は80,144人(2016年)である。この市は、大阪市のベッドタウンであり、市民の大多数が大阪で働いている。名張市民の半数以上が生産的な年齢で、65歳以上の高齢者の20%未満である。名張市は、全国や三重県の平均と比較して、より若い人口を擁している。しかし近年では、この市でも高齢者の増加傾向が見られる。

三重県の中で、名張市は独特な健康づくり活動を行っている市である。そのうち、特に特記すべき特徴の1つは、名張の15の小地域に「まちの保健室」が存在することである。まちの保健室では、小児から高齢者に至るまで、健康関連の問題の総合的な相談窓口として機能している。それに加えて、各小地域が自らの健康づくりを自由にすることができる。また、2016年以来、「まちじゅう元気リーダーのプロジェクト」を開始している。また、名張市には同市の寄附により三重大学医学部名張地域医療学講座が設立されており、個々を中心に地域医療に関わる様々な研究や教育が実施されている。

名張市の健康増進システムには、大きな可能性がある。しかし、各小地域における多様性は非常に大きい。各小地域の活動は地域の指導的立場にある人の関心に基づいており、そのいくつかは統合されているというよりも散発的になってしまっている。

したがって、本研究では地域の住民と他のステークホルダーと協力して、より統合されたプログラムを作ることを考えている。プログラムは、問題解決指向であり、科学的方法論を駆使して証拠を生成する。まず、地域のニーズ評価を行い、地域で解決すべき優先課題を決定する。その後、地域の住民やステークホルダーとともに、統合された健康促進活動を計画する。健康増進プログラムは地域住民全体を対象としているため、健康的なライフスタイルの推進が行われる。それに加えて、生活習慣病のスクリーニングや高リスクの人々のための相談も提供される。そしてプログラムの有効性を確認するために、ベースライン、中間およびエンドラインにおける評価が行われる。

3.期待される活動成果等 

地域のニーズや好みに合った健康増進プログラムを設計することにより、予防・治療プログラムの地域定着が図られることが期待される。また、プログラムの健康的な生活習慣や疾病予防活動は、本研究の参加者の健康を改善すると期待されている。そして長期的には、同地域住民の健康寿命を延ばし、高水準の介護保険ケアの必要性を減らすことが期待される。このプログラムが有益であると証明されれば、名張市職員は他のすべての小地域でもプログラム申請を広める可能性がある。一方で、これらの研究は、三重大学医学部名張地域医療学講座や三重大学に対する名張市の委託研究事業「名張市における在宅医療に関わる研究」の研究活動として行われるため、三重大学の地域に資する研究の業績も増加することが期待される。また、同地域の名張市立病院を中心に行われている三重大学医学部の医学生や看護学生に対する家庭医療・総合診療の卒前教育や総合診療医の卒後研修にも組み込めば、地域に資する教育がさらに充実することになる。

平成29年度活動状況報告書