三重大学 環境エネルギー工学研究センター

環境に配慮した新しいエネルギー要素技術の開発や資源循環に関する研究を行い,持続可能社会への貢献を行うことを目的としています.環境対策技術,再生可能エネルギーや次世代エネルギー開発,省エネルギー技術など,環境配慮型のエネルギー・資源利用とエネルギー創出に関する基礎及び応用研究を行っています.

環境エネルギー工学研究センター

研究目的

 石油危機を契機として石油代替エネルギーの開発や研究が世界的にも進められて来たが,依然として化石エネルギーへの依存度が高く,とくにエネルギー資源の賦存量が極めて少ないわが国においてはエネルギー自給率が低く,エネルギーセキュリティのためにも新エネルギーの活用や省エネルギーなどの促進が急務とされている.
 一方で化石エネルギーの大量消費によって引き起こされる温暖化などの地球規模での環境問題が顕在化している.環境問題は生態系を崩し人類の存亡そのものに影響するため様々な分野の知見を活用した環境保全の研究や開発が必要とされている.
 以上のように環境とエネルギーは密接な関係にあり,世界的にも環境に配慮した石油代替エネルギーの開発や3Rなどの資源循環や省エネルギーシステムの構築が進められているが,十分な成果が挙げられていない.また,エネルギー関連の要素技術は熱や物質の輸送に深く関わっており,直接的に環境に寄与するもののみならず幅広い産業分野において活用することができるとともに,流体工学・熱工学といった工学の基盤を成す学問分野や,生体工学,マイクロ・ナノ工学といった学際的分野の発展にも寄与することができる.
 三重大学環境エネルギー工学研究センターでは,環境に配慮した新しいエネルギー要素技術の開発や資源循環等に関する研究を行い,持続可能社会への貢献を行うとともに世界トップレベルの研究を目指す.

研究内容

Ⅰ.環境保全・再生,リサイクル

  • a) 光触媒によるCO2の再資源化:本研究では,TiO2光触媒を用いてCO2をCO,CH4などに改質し,燃料や化学物質として有効利用する技術の開発を行う.改質後の生成物の燃焼や化学物質としての使用で発生するCO2は再びTiO2光触媒で改質することで,CO2量を増やさない炭素循環系が構築される.このような炭素循環系が構築されれば,地球温暖化の原因とされるCO2量の急増とエネルギー資源枯渇という二つの地球環境問題の同時解決が可能になる.将来的な太陽光利用を意図した可視光応答型光触媒の開発およびその光触媒を組み込んだCO2改質反応器の性能向上,ならびに炭素循環系構築のための周辺技術を含めたシステム開発を本研究の目的とする.
  • b) 廃棄物再資源化:資源の大量消費,大量廃棄に伴って,廃棄物処理が大きな課題となっている.資源循環型社会形成推進基本法のもと,廃棄物とリサイクル対策が総合的,計画的に推進されている.これまでの研究では,従来焼却処理されていたプラスチックス系廃棄物の再燃料化に取り組み,その有効性を省資源,省エネルギー,環境負荷低減の観点から示した.また,昨今では,製品製造段階で発生する金属切削屑やモータをはじめとする磁性廃棄物の再資源化のために,過熱水蒸気による脱脂,消磁技術が提案されている.これら技術は,廃棄物のリサイクル率の向上はもとより,再資源の品質向上に貢献する.廃棄物再資源化特有の安全性,信頼性,省エネルギー,高効率の観点で,再資源化技術の研究開発を行う.

Ⅱ.エネルギー

(1) 再生可能エネルギー・次世代エネルギー

  • a) 風力発電:10MWを超える超大形の洋上風車の開発が世界的に進められている.本研究では,超大形風車に必要な仕様の抽出と洋上風車に適した空力制御技術を開発する.また,陸上とは異なった性質を有する洋上の風環境下における風車の挙動解析を行う.一方,陸上風車は,複雑地形に起因する高い乱流強度の風や突風,台風等の変動や極値が高い風に晒される.本研究では,これらの厳しい風環境における風車駆動系(ドライブ・トレイン)の荷重計測と高効率ドライブ・トレインの開発を行う.これにより厳しい風環境においても故障すること無く安定して発電できる信頼性の高いドライブ・トレインを風車に導入できることが期待される.
  • b) バイオマス発電:バイオマスエネルギーは再生可能エネルギーの中でも比較的エネルギー貯蔵が容易であり,エネルギー密度が高い.本研究では,木質バイオマスのガス化や微細化により,ガスエンジン用の燃料開発を行い,小型のバイオマス発電システムを開発する.これにより小さな規模の集落においても設置可能な分散型の木質バイオマス発電を導入できることが期待される.
  • c) 燃料電池・二次電池:燃料電池には次世代エネルギーとして非常に大きな期待が寄せられている.とくに固体高分子形燃料電池(PEFC)は家庭用電源や自動車用動力源など広い範囲にわたる利用が見込まれている.PEFCの開発課題である長寿命高効率安定運転の実現に資する知見を得ることを研究目的として,反応,発熱,水生成が生じ,その面分布がセル寿命や出力に影響すると考えられる電解質膜とカソード触媒の界面を中心に,単セル内の熱・物質輸送現象を実験と伝熱モデリングに基づく理論解析の両面から解明する.単セル構造や運転条件を種々変化させて検討することで長寿命高効率安定運転する上での支配因子を抽出し,製品設計・最適運転の指針を提案する.
    また,リチウムイオン電池は小型でエネルギー密度が高いことから,従来の携帯電話やパソコン用の小型電源から,例えばハイブリッドカー用の比較的大型の電源にまで用途が広がっている.この電池の製造では,電池を構成する活物質の乾燥行程が非常に重要となるが,電池内部の水分移動については不明の点が多い.本研究では,自動車用リチウムイオン電池実機の乾燥工程を模擬した実験装置において,加熱に伴う電池内部の温度変化と水分蒸発量を測定し,シミュレーションに必要なモデル化に耐える精度をもつデータの蓄積を行っている.

(2) 省エネルギー

  • a) 高効率ヒートポンプシステム:店舗や事務所などの業務用建物では,全エネルギー消費の30%~50%が空調に費やされる.近年,業務用建物の空調にもパッケージエアコンやビル用マルチエアコンなどの個別分散空調が多く用いられるようになってきた.そのため,業務用建物におけるエネルギー消費量削減の観点からも,エアコンの省エネ性向上が強く求められている.本研究では,個別分散空調が使用されている大型量販店舗での建物内空調負荷の実測を試み,従来確立が困難であった室内空調熱負荷モデルを構築する.このモデルに基づき,近年多く利用されるようになりつつあるビル用マルチエアコンに注目し,その部分負荷性能が高い点を利用した個別分散空調の省エネ化手法や高精度なエネルギー消費量予測手法を開発する.また,実際の建物ではエアコンは比較的低負荷の条件で運転される時間が多いため,実質的な空調エネルギーの削減を図るためには,低負荷時の性能を向上させる必要がある.この点に注目し,ビル用マルチエアコンにおいて従来機器の1.5倍のCOPを達成できる革新的な省エネ制御技術の開発を行っている.
  • b) 省エネ型照明:長寿命で消費電力の少ないLED照明などの省エネ型照明は,住宅および業務用ビルを中心に導入が加速している.こうした省エネ型照明は,単に消費電力が少ないだけでなく室内方向への放熱量も減少し空調負荷の低減も可能と考えられており,建物の省エネルギーに貢献すると期待されているが,実際に省エネ型照明による定量的な空調エネルギー低減効果を明確にした事例は殆ど見当たらない.本研究では,様々な形態のLED照明および従来の蛍光灯について,照明器具が室内方向(下向き)の熱量に与える影響を実験的に明らかにする.さらに,これらの実験結果をシミュレーションに組み込んで各種業務用建物の空調負荷を計算し,エアコンのCOP特性と組み合わすことで空調エネルギーの削減効果についても明らかにする.
  • c) 車両に装着する省エネ空力パーツの開発:環境負荷低減と燃料費高騰により車両の低燃費化が進められている.本研究では,車両の省エネのための空力パーツを開発して車両に装着したり,車両自体の空力形状を最適化することにより,車両の抵抗低減や駆動力改善のための接地荷重向上に関する研究を行う.これにより,年々厳しくなる省エネ規制に対応できる低燃費車両の実現が期待できる.

Ⅲ.要素技術開発

  • a) 高効率熱交換技術:熱交換器は,大型の動力プラントからパソコンなどの電子機器に至るまで非常に広い範囲にわたって使用されている.とくにヒートポンプでは,熱交換器の高効率化がその省エネ性に直接影響を及ぼす.こうした熱交換器の高効率化を達成するためには,相変化を伴う複雑な熱流動現象の解明と制御,また相変化により発生する熱の効率的輸送など,熱流体工学の基盤技術が不可欠になる.本研究では,今後応用範囲の拡大が見込まれているパラレルフロー型熱交換器で重要となる気液二相流の可視化技術,気液分配率測定技術,均等分配技術の確立を行うとともに,シミュレーションの検証に利用可能な高精度なデータの蓄積を行う.また,熱抵抗の高い空気側においても,熱伝達の促進技術など,熱交換器の高効率化の要素技術開発を行う.さらに,空調システムでは温度の異なる流体の混合状態を制御する技術が必要となる場合があるが,高効率でロバスト性の高い乱流混合制御技術の開発も行う.
  • b) 冷凍機要素開発:冷媒を用いる冷凍機は,一般に圧縮機,凝縮器,膨張器および蒸発器の4つの機器から構成される.冷凍機の性能向上には,個々の機器の性能を向上させること,ならびにこれら機器を組み込んだシステムとしての性能向上が求められている.本研究では,システムの性能を大きく支配する膨張器に関して,冷媒流動の可視化により冷媒の挙動把握ならびに性能向上のための構造提案に取り組む.また,蒸発器に関しては,一般に気体冷却が多いたために,フィンアンドチューブ式が用いられてきた.液冷却に関しては,気体に比して熱伝達率が高いことから,構造が簡単で安価な二重管式やプレート式も有効と考えられる.これら構造を持つ蒸発器の開発ならびに特性評価を行う.
  • c) 高精度数値シミュレーション技術:エネルギー関連機器における高効率な伝熱制御や省エネ対策には詳細な流動現象の把握とその知見に基づく合理的な制御が不可欠である.伝熱関連として,開発した沸騰現象の高精度シミュレーションスキームをさらに高度化し、スプレー冷却やレーザーアブレーション等の現象を含む多様な伝熱機器での高精度伝熱予測技術を開発する.これにあわせGPU等を利用した高速化アルゴリズムの検討を行い,実用化に向けた取り組みを加速する.環境問題に関するエアレーション技術としてのマイクロバブル生成技術,省エネに関する燃料の微粒化技術等,分散相の高精度シミュレーション技術も開発する.
  • d) 熱流動計測技術:冷凍機を構成する膨張器は,冷媒を狭路で,液体から気液二相に急激に減圧している.この減圧過程は,流路径1 mm以下,流路長10 mm以下というたいへん小さい領域で数MPaの急減圧と相変化を行う.冷媒流速も高速である.冷媒挙動の特性は,取扱いの容易な他の流体で把握することは難しく,実機使用の冷媒で実験することが望まれている.狭路,急減圧,高速現象の冷媒挙動を可視化手法で分析評価することにより,高性能膨張器の開発に取り組む.
  • e) 噴流制御技術:エネルギー関連機器において,噴流による混合・燃焼・加熱/冷却などが行われている.従来の方策では、噴流の不安定構造に依存した受動的制御が中心で,特定の発生するモード構造を引き出す事に終始していた.現在,要素技術として噴流の動的制御に取り組み,単独の噴流の場合について多様なモード構造の形成と高い混合性能が達成されることを見出している.当該技術の考えを踏襲し,固体壁面を伴う衝突噴流にも適用,さまざまな機器での高効率な伝熱・物質交換技術を開発する.実用上,多数の噴流を利用することが多く,複数の噴流を協調制御することによる新たなモード構造の制御と最適化手法を開発する.

研究組織

工学研究科 教授 前田 太佳夫
工学研究科 教授 辻本 公一(センター長)
地域イノベーション学研究科 教授 丸山 直樹
工学研究科 准教授 鎌田 泰成
工学研究科 准教授 西村 顕
工学研究科 准教授 安藤 俊剛
工学研究科 准教授 山村 直紀
工学研究科 助教 高橋 護

センター長

工学研究科 教授 辻本 公一

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