clear
植物保護・利活用を基板とする東紀州再生プロジェクト
  2004年に世界遺産に登録された東紀州の紀伊山地は、標高1000~2000m級の山脈が東西南北に走り、年間3000ミリを超える豊かな降雨により深い森林が育まれ、熊野灘沿岸地域では黒潮による太平洋型海洋性気候の影響を受けて温暖な気候が広がっています。海岸線には海浜性植物が成育し、内陸に向かっては標高別に様々な常緑広葉樹林、亜高山性針葉樹林が分布し、まさに本邦の自然植生の縮図とも言われています。本来、当該地域では、その特異な環境条件により、生態系は地域色豊かな植物種で構成されていましたが、近年は種々の外的要因により存在自体の確認も難しくなった希少種が少なくありません。そこで、三重大学大学院生物資源学研究科の植物学系研究グループでは、県立熊野古道センター、尾鷲市と連携し、東紀州における希少植物の保護・保全事業を展開しようとしており、本年から3カ年を第1フェーズと位置付け、下に示すような取り組みの始動を計画しています。
  また、近年は県内の南北地域間で経済活動等に格差が生じており、その解消が大きな課題となっています。本プロジェクトでは、統廃合された学校跡地や撤退した電力会社跡地などの遊休地と、東紀州の温暖な気候を利用してソテツを栽培し、新規デンプン資源の確保と生物エネルギー生産への転化事業の創出を図り、地域再生の足がかりにすることを活動の柱の一つとしています。
  両事業とも、共同実施者にはプロジェクトサイト、地域資源、地域とのコミュニケーションを含む人的支援の提供、さらには研究成果の普及活動をお願いしています。

(1)植物保護事業概要(20年度はⅰ、ⅱ)を中心に実施します。)
  1. 研究ネットワークの構築:特定非営利活動法人熊野古道自然・歴史・文化ネットワークなどと植物の保護・保全活動を展開する上での人的ネットワークを形成します。
  2. 定点観測サイト設置調査:希少植物の個体群密や群落構造の経時的変化を把握するため、加害動物など外的インパクトを制御した定点観測サイトを設置するための基礎調査を行います。
  3. 植物と共生菌、寄生菌、内生菌との相互作用解析:希少植物の生育個体の把握と、その生育に密接に関わると考えられる共生菌や寄生菌の部位別体内分布を解析します。
  4. 系内遺伝的変異の調査:当該生態系における対象植物種の個体群間・群落内の遺伝的変異を解析するため、形態、生理、分子系統学的な調査方法の検討を行います。
  5. 個別培養技術の検討:希少植物の近縁普及種を用いて培養系、増殖方法を検討します。