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熊野市大泊町善根宿に伝わる江戸時代の「納札」の調査と活用

 江戸時代には、自力で旅を続けられない貧しい巡礼に、道沿いの有力者が無料で宿を提供する善根宿という施設がありました。巡礼は泊めて貰う御礼に、住所・氏名、年月日、参拝地等を記した紙の札を善根宿の主人に納めます。熊野市大泊町・若山正亘氏宅で2007年末に見出された納札は、江戸時代後期から昭和初年にかけて熊野街道を辿った巡礼たちが善根宿を勤めた若山氏の先祖に納めたもので、6千万近くにのぼります。熊野街道沿いに限らず、全国的に見ても貴重な歴史資料です。地元の市民団体・熊野古文書同好会では、塚本の助言の下で、2008年2月から毎週定期的に調査を進め、塚本は数度の参加のほか、学生・院生・卒業生らとともに2008年9月と2009年3月に集中調査を行いました。基礎的なデータ取りはほぼ終了し、今年度は保存措置を講じると共に、調査報告書の作成に向けて、点検と分析作業に取り掛かる予定であります。共同研究者・縣拓也は、2008年10月に開催された交通史研究会例会においてこの納札調査について概要を報告し、塚本はシンポジウムのパネラーとして、コメントを付しました。数度の講演等でも紹介したことで、国際熊野学会代表の林雅彦氏(明治大学教授)、三重県文化財保護審議会委員の稲元紀昭氏(京都女子大学名誉教授)らから、強い関心を寄せられています。調査終了後は熊野市の文化財に指定する準備を既に進めていますが、将来的には三重県の文化財に登録する価値も有するもであります。成果の社会還元として、熊野市からは、今年秋に開館予定の市立図書館で公開展示して欲しいとの依頼があり、また県立熊野古道センターからは、来年1月から開催する特別展の展示資料として取り上げたいとの要請がありました。現在、古文書同好会と対応を協議中ですが、報告書の刊行に合わせて市民向けの成果報告会を開催し、展示会を行うことは合意しています。

平成21年度活動報告書