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農地石垣における伝統技術の科学的解明と若手石積技術者養成

活動の概要
棚田や段畑と石垣が織りなす四季折々の景観は、里の田園風景と並ぶ日本の原風景の一つである。棚田や段畑の石垣は地域の地質状況・歴史・文化・土木技術・農林業を背景に、1石1石手によって積み上げられた先人の努力の結晶であり、土壌流亡や洪水緩和など国土の保全にも大きく寄与している。このような、農地石垣の作る景観は非常に優れており、1999年に農林水産省によって選定された棚田百選において、三重県で選定された3件の地域はいずれも農地石垣を有する地域である。しかし、近年この棚田や段畑の農地石垣が失われつつある。
申請者らは、これまでの研究によって、この要因を、①農地石垣の強度発現メカニズムが未解明であるためコンクリート壁が普及したこと、②コンクリートの普及により若手技術者への技術の伝承が断絶したこと、③地域住民が石垣の文化的・景観的価値を充分理解していないこと、④そもそも農地石垣の分布が把握されておらず保全の重点地区などが不明であることと分析し、学術誌に報告している。
これらの要因によって、石積み技術は急速に衰退し、技術者である石工の方も70才を越える高齢者となっている。技術の伝承という観点から、若手技術者要請は喫緊の課題である。また、農地石垣地域では、災害復旧において過疎高齢化により人手が足りず、農地石垣の復旧ができず離農の要因となっているという地域の悩みもある。
三重県の美しい景観形成要素である農地石垣の保全するために、石積み塾への参加によって学生への伝統技術の伝承を図り、また地域シンポジウム等の講演活動によって県民に伝統技術と地域の貴重な資源の再発見を促し、伝統技術の科学的裏付けを行うことで、三重大学が高齢の技術者と若手技術者及び、農地石垣をもつ中山間地域と一般の県民の架け橋となることを目的とする。
本申請では、これまで有志による参加であった「石積み体験教室」について、農地石垣、学生参加活動、地域景観、地域活性化に関する教育研究活動を行なってきた教員を配して、3年間積極的に関与する予定である。3年の間で、農地石垣地域の住民の石垣景観に関する意識の変革、大学側の技術伝承システムの基盤整備、地域住民と大学と県との連携の構築を図ることで、石積み塾の発展的な継続効果を狙うものである。

→ 平成24年度活動状況報告書