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30_地域社会参加型研究を通して地域の課題解決に取り組む

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

【背景】

日本は,少子高齢,人口減少社会となっており,一人当たりの医療・介護の給付額が増加傾向である。少子高齢,人口減少社会は更に進み,社会保障費は一層増大することが予想される。しかし,現役世代の人口減少により,これまでの社会保障制度を維持し続けることが難しくなっている。

また,核家族の増加に伴い,高齢者世帯の増加や,独居高齢者が増加している。独居の高齢者は社会から孤立しやすいことが明らかとなっている。高齢者の孤立は,孤独死の増加など社会問題となっている。

高齢者の孤立をはじめ,地域が抱えている課題を解決するため,住民一人ひとりが,制度・分野ごとの縦割りや支え手・受け手という関係を超えて繋がり,支え合うことで,住民一人ひとりの暮らしと生きがい,地域をともに創っていく社会を目指す「地域共生社会」の実現が求められている。

【本事業の必要性】

我々はこれまで,三重県の北部に位置する東員町で役場職員と共に地域の課題解決に向けた議論を重ねてきた。東員町が抱える課題も例外ではなく,高齢化や人口減少に伴う高齢者の孤立や空き家の増加,世代間交流の減少が問題となっている。調査によると,東員町の高齢化率は28.15%で,高齢者世帯,独居高齢者が増加している1)。高齢者世帯や独居高齢者は他者との交流が減少しやすい。図1に示す通り,人とのつながりが減少すること(社会的孤立)で,外出頻度の減少を引き起こす。外出頻度の減少は,心理面・身体面に悪影響を及ぼし,身体の虚弱状態(身体的フレイル)を引き起こす。虚弱状態は要介護状態の前段階であり,社会との繋がりを保つことは,要介護状態の予防の観点において重要である。

そのため,高齢者の孤立予防に向けて,行政が中心となり様々な取り組みが行われてきた。しかし,その効果は十分には得られていないのが現状である。

地域が抱える健康課題は多種多様であり,膨大であるため,行政が主体となり解決することが難しくなっている。そのため,行政は,住民が地域の課題を「我が事」として考え行動する地域「地域共生社会」の実現を目標としている。そして,住民が主体となり課題解決に取り組む方法がこの地域では求められている。

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【本事業の目的】

本事業の目的は,地域社会参加型研究(community-based participatory research:CBPR)の手法を用いて,高齢者の孤立問題について,住民が地域の課題と捉え参加することにより,地域の課題解決能力の向上を支援することである。

地域社会参加型研究とは,1950年代にブラジルの教育学者パウロ・フレイレの活動が始まりとされ,世界の貧困や健康格差などの格差対策のアプローチ方法として広く用いられてきた2)

CBPRの原則として以下の項目が挙げられる。

  • 活動のすべての段階で住民と専門職が対等なパートナーシップで協働すること
  • コミュニティの強みや資源を尊重すること
  • 活動の成果はコミュニティに還元すること
  • 結果を利用しやすい形でコミュニティに還元し,広く社会に普及させること
  • 長期持続可能な活動として取り組むこと

CBPRは図2のような流れで行われる。
CBPRを通して,地域の課題を住民が「我が事」として捉えることが定着し,地域共生社会の実現に貢献したいと考えている。

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2.活動する地域と内容

【活動する地域】

活動予定地域は三重県の北部に位置する東員町である。東員町は東を桑名市,西をいなべ市,南を四日市市が隣接する都市近郊農村である。東員町は明治21年町村制実施以来から続く地域と,昭和49年に造成された大型住宅団地の地域に大きく分けられる。団地は名古屋圏のベッドタウンの性格が強く移住者が多い。人口は約25000人で,高齢化率は28.15%で,大型住宅団地の高齢化が進んでいる事が特徴である。また,高齢者世帯が増加しており,平成28年に60代以上の住民を対象としたアンケート結果によると,高齢者のみの世帯は57.5%であった。特に団地で高齢者世帯が増加している。住宅団地は移住者が多く,近所付き合いが希薄となり,近所付き合いはあいさつ程度の住民が多くを占めている。高齢者の孤立問題に対し,住民の主体的な活動を求めてきた。しかし,十分には進まず,行政を中心とした公的支援によって対策が講じられてきた。

【活動内容】

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3.期待される活動成果等

住民と共に地域課題に挑むCBPRの活動を通して,地域住民が「高齢者の孤立」という地域の課題について「我が事」として考える意識を作り出すことが出来る。

また,住民が主体となり考え,行動することで,今後起こりうる様々な地域の課題に対しても,住民が「我が事」として捉え,主体的に取り組む地域に変化していく事を期待している。そして,その変化は地域共生社会の実現につながる。

【参考文献】
 1)シニアが元気で活躍できる地域づくりを進めるための意向調査
  http://www.town.toin.lg.jp/cmsfiles/contents/0000006/6216/kekka.pdf
 2)孫大輔,知っ得!手段④地域社会参加型研究,治療,2018、vol1,No1

平成30年度活動状況報告書