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29_地元テレビ局や気象予報士との協働による三重の『気象力』向上プロェジクト(継続2年目)

【活動の概要】

1.本活動の背景,必要性,目的

本活動の背景

昨年度日本気象学会会員の准教授3名が新たに生物資源学研究科・共生環境学専攻に着任した。結果として、共生環境学専攻では総勢7名の日本気象学会会員の教員を有する専攻となった。気象に関係する教員が単一の専攻内に多数結集する地方大学は希であり、この分野では日本を代表する拠点大学である。また、様々な時空間スケールの現象を扱う研究者の幅ができた。

気象・気候は地域貢献の宝庫

天気を気にしない人はいない。だからテレビ番組では毎日天気予報の時間が設けられている。しかし、天気のことをよく知っている人は以外に少ない。例えば、三重県南部の降水量は際だって多く、年間4000 mmを超える地点もあり、熱帯や離島を除けば世界一の多雨地帯である。三重県には雨量日本一という貴重な「気象資源」があるにも拘わらず、三重県に住む人々ですらこの日本一を知らない。極端気象を地域活性化や地域興しに活かして成功している地域が数多くある中(暑さ日本一の多治見市、寒さ日本一の陸別町等)、雨量日本一という「気象資源」があるにも拘わらず嘆かわしい。

三重県が多雨地帯であることと温暖な気候であることから尾鷲檜に代表される大森林地帯を形成している一方、2011年の台風12号による紀伊半島豪雨に代表される大災害がしばしば生じる。鈴鹿山脈などの急峻な山地に囲まれる伊賀上野は、高校地理の教科書にも載る典型的な盆地気候であり、寒暖が激しい気候でそれを活かした農業が盛んである。鈴鹿山脈の東に位置する津市周辺は、鈴鹿おろしが吹く強風の町として有名で、それを利用した西日本一の風力発電地帯を有する。鈴鹿山脈を阪神地域と中京地域との物流のシナプスである名阪国道が縦断するが、峠付近は冬期しばしば大雪に見舞われ、運輸業にとって気象の予測がきわめて重要となる。このように三重県には際だった気候・気象を有し、それが地域の風土に影響し、時には甚大な災害をもたらしてきた。

地域興しや地域活性化、そして地域防災のためには、その土台となる地域の特徴的な気象や気候を知っておく必要があることは自明である。また、温暖化に伴う将来の地域の気候や気象についてもっと知る必要がある。市民が地域の気象・気候のことを知り、「気象力」が向上するためにはどうすればよいのだろうか?大学研究者の主たる活動は、さまざまな自然現象を科学的に探究することであるが、得られた知見は全くと言っていいほど市民へは伝わっていない。

昨年度の成果

そのような背景を契機として,昨年度に「地元テレビ局や気象予報士との協働による三重の『気象力』向上プロェジクト」としてこの事業をスタートさせた.昨年度は三重テレビの気象担当の気象予報士のキャスター等と連携し、定期的な勉強会を開催した.この勉強会を端緒として,三重テレビにて気象情報に関連する月1回の新番組「三重の風紀行」を今年度4月から始まる事となった.この番組では,三重大学の関連教員が出演する.三重大学での気象・気候関係の研究成果などや気象・気候の基礎知識について,多くの県民へ定常的に発信する場をつくることに至った.この番組が始まることにより,気象災害・気候変動・異常気象・地球温暖化等の我々研究者が持っている知見を地域市民へ定常的に発信することが見込まれる.

必要性と本活動の目的

番組は毎月放映されることから,勉強会等を通じたテレビ局との連携をこれまで以上に強める必要性が生じた.また,テレビ局だけに留まらず,地元気象台.三重県庁の防災関係部署,農林水産業を始めとする気象・気候と関わりがある産業関連部署,地球温暖化関連部署などとの連携に基づく番組作りをも,関係機関と連携し模索する必要性がある. 勉強会や関係機関との連携を基にし、マスメディアを通じての多くの県民へ幅広くそしてわかりやすい気象の解説を発信する。これらにより、地域の発展・活性化につながる活動を行うことを目的とする。

2.活動する地域と内容

  • 三重テレビの気象担当の気象予報士のキャスターと連携し、地元マスメディア関係の気象予報士やNPO法人気象キャスターネットワークと協働し気象に関する勉強会の開催(月一回程度、定期的に実施)。
  • 番組担当の気象予報士と三重大学の気象研究者(教員だけでなく大学院生も含む)によるトークを交えたコーナーの発展のための、大学関係者と地元マスメディア関係者・地元自治体・地元気象台等との打ち合わせ
  • 外部講師(有名キャスター)を招いての講演会の企画。講演会はイオンモールなどの大型ショッピングセンターでの開催を模索する。
  • 特徴的な気象・気候を知るためと地域への普及活動のための県内市町の巡検広報活動(メディア関係の気象予報士と大学スタッフ)(年数回程度、三重県南部・山間部・内陸部)
  • 伊勢湾は江戸時代から蜃気楼の名所として知られている.今年度は,新たなパイロットスタディーとして,伊勢湾蜃気楼と蜃気楼観望地としての三重県の観光発信に着手する.そのために小樽市総合博物館の蜃気楼研究の日本の第一人者であり蜃気楼で町おこしを実施している科学者を招いての,蜃気楼講演会の企画の検討する.

3.期待される活動成果等 

  • マスメディアを通じた地元発信による地域の発展・活性化の促進
    • テレビ局などのマスメディア所属の気象予報士らと三重大学の気象・気候研究者が定期的に会して、気象や気候の勉強会を開くことにより、お互いの知見を深め、その成果を気象・気候関連の番組に活かすことで、テレビや新聞などのマスメディアを通じての多くの県民へ幅広く発信することにより、地域の発展・活性化につながる。
    • 地元密着型のきめ細かい気象予報の制作を通じた放送による、全国ネット放送との差別化による地元メディアの視聴率増加(視聴率増加は、結果として県民の気象知識の増加に直結)
  • テレビで定期的に大学と連携した気象番組を発信することにより、三重大学の入試効果向上
    • これまでSSH活動等を通じて地元の高校に教育を行ってきたが,気象や地球環境(広い意味での地球科学)について科学的に学びたいという希望を持った高校生が多いことが分かった.ところが,理学部が無い三重大学に気象関係の教育研究組織(広い意味での地球科学分野)があることを多くの県民は知らない。地元高校の先生や塾の先生ですらそれを知らないことが理由の一つであろう。地元テレビで定期的に三重大学と連携した気象番組を発信することにより、それが習知され、優秀な地元高校生の進学時の県外流出を減らし,さらに偏差値が上がることに伴う入試効果が上がり、結果として三重大学ブランドが強化されることが期待される。これは、メディアに広告料を支払わなくても大学の地元への宣伝活動を間接的に行うことになる。従って、大学側メディア双方に対してwin-winの関係が築かれる。

平成29年度活動状況報告書