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28_地元テレビ局や気象予報士との協議による三重の『気象力』向上プロジェクト

【活動の概要】

1.本活動の背景、必要性、目的
 本活動の提案に至った経緯
 昨年度から今年度にかけて日本気象学会会員の准教授3名が新たに生物資源学研究科・共生環境学専攻に着任した。結果として、共生環境学専攻では総勢7名の日本気象学会会員の教員を有する専攻となった。気象に関係する教員が単一の専攻内に多数結集する地方大学は稀であり、この分野では日本を代表する拠点大学である。また、様々な時空間スケールの現象を扱う研究者の幅だできた。これまでも、豪雨災害や地球環境に関わる地元講演会等を通じて「地域の発展・活性化につながる活動」に貢献する活動を個別に行ってきた。しかしながら、それらは外部から依頼を受けた受動的な活動がほとんどで、能動的な活動ではなかった。今般提案する活動は、関係教員一丸となっての、これまでとは全く異なるアプローチによる地域貢献活動である。
 気象・気候は地域貢献の宝庫
 天気を気にしない人はいない。だからテレビ番組では毎日天気予報の時間が設けられている。しかし、天気のことをよく知っている人は意外に少ない。例えば、三重県南部の降水量は際立って多く、年間4000mmを超える地点もあり、熱帯や離島を除けば世界一の多雨地帯である。三重県には雨量日本一という貴重な「気象資源」があるにも拘わらず、三重県に住む人々ですらこの日本一を知らない。極端気象を地域活性化や地域興しに活かして成功している地域が数多くある中(暑さ日本一の多治見市、寒さ日本一の陸別町等)、雨量日本一という「気象資源」があるにも拘わらず嘆かわしい。
 三重県が多雨地帯であることと温暖な気候であることから尾鷲檜に代表される大森林地帯を形成している一方、2011年の台風12号による紀伊半島豪雨に代表される大災害がしばしば生じる。鈴鹿山脈などの急峻な山地に囲まれる伊賀上野は、高校地理の教科書にも載る典型的な盆地気候であり、寒暖が激しい気候でそれを活かした農業が盛んである。鈴鹿山脈の東に位置する津市周辺は、鈴鹿おろしが吹く強風の町として有名で、それを利用した西日本一の風力発電地帯を有する。鈴鹿山脈を阪神地域と中京地域との物流のシナプスである名阪国道が縦断するが、峠付近は冬季しばしば大雪に見舞われ、運輸業にとって気象の予測がきわめて重要になる。このように三重県には際立った気候・気象を有し、それが地域の風土に影響し、時には甚大な災害をもたらしてきた。
 地域興しや地域活性化、そして地域防災のためんは、その土台となる地域の特徴的な気象や気候を知っておく必要があることは自明である。また、温暖化に伴う将来の地域の気候や気象についてもっと知る必要がある。市民が地域の気象・気候のことを知り、「気象力」が向上するためにはどうすればよいのだろうか?大学研究者の主たる活動は、さまざまな自然現象を科学的に探究することであるが、得られた知見は全くと言っていいほど市民へは伝わっていない。これまで代表者らは講演会やSSHへの協力などで受動的ながら地域貢献活動をしてきたが、それには限界があった。関連教員数が増えたことにより、これまで受動的であった地域貢献活動の能動的展開への転換に向けての基盤が整った。
本活動の目的
 
本申請活動の一つは、テレビで毎日必ず放映されるおなじみの天気予報番組を活かした活動である。地元テレビ局や地元の紙媒体メディアなどのマスメディア所属の気象予報士らと三重大学の気象・気候研究者が定期的に会し、気象や気候の勉強会を開く。勉強会を通じてお互いの知見を深め、その成果を天気予報番組や記事に活かすことで、マスメディアを通じての多くの県民へ幅広くそしてわかりやすい気象の解説を発信する。これらにより、地域の発展・活性化につながる活動を行うことを目的とする。マスメディアで活躍の気象予報士は、気象についての知識は豊富であるが、必ずしも最先端の気象学に精通しているわけではない。従って、放送内容に最先端が取り入れられることはほとんどないのが現状である。一方研究者は、研究成果の市民への発信を苦手としている。逆にメディア関係者は、市民への発信が本業である。大学側の活動実施者全員は三重県以外の出身であり三重固有の気象について実感する機会に乏しく、気象情報に関する県民のニーズが分からない。研究者にとっては、この勉強会を通じて県民のニーズを知り、より地域のための研究を行う一助となる。これら双方の協働により、お互いの得手を活かした共同作業を行う。本活動の将来的な目的の一つとして、番組担当の気象予報士と三重大学の気象研究者によるトークを交えたコーナーを天気予報番組へ組み込むことも視野に入れる。 

2.活動内容
●かねてから親交のある三重テレビの気象担当の気象予報士のキャスターと連携し、地元マスメディア関係の気象予報士やNPO法人気象キャスターネットワークと協働し気象に関する勉強会の開催(月一回程度、定期的に実施)。
●外部講師(有名キャスター)を招いての講演会の企画。講演会はイオンモールなどの大型ショッピングセンターでの開催を模索する。
●番組担当の気象予報士と三重大学の気象研究者(教員だけでなく大学院生も含む)によるトークを交えたコーナーを天気予報番組へ組み込むための、大学関係者と地元マスメディア関係者との打ち合わせ
●特徴的な気象・気候を知るためと地域への普及活動のための県内市町の巡検広報活動(メディア関係者の気象予報士と大学スタッフ)(年数回程度、三重県南部・山間部・内陸部) 

3.期待される活動成果等
●マスメディアを通じた地元発信による地域の発展・活性化の促進
 ➣テレビ局などのマスメディア所属の気象予報士らと三重大学の気象・気候研究者が定期的に会して、気象や気候の勉強会を開くことにより、お互いの知見を深め、その成果を天気予報番組に活かすことで、テレビや新聞などのマスメディアを通じての多くの県民へ幅広く発信することにより、地域の発展・活性化につながる。
 ➣地元密着型のきめ細かい気象予報の制作を通じた放送による、全国ネット放送との差別化による地元メディアの視聴率増加(視聴率増加は、結果として県民の気象知識の増加に直結)
●テレビで定期的に大学と連携した気象番組を発信することにより、三重大学の入試効果向上
 ➣気象や地球環境(広い意味での地球科学)について科学的に学びたいという希望を持った高校生が多いが、理学部が無い三重大学に気象関係の教育研究組織(広い意味での地球科学分野)があることを多くの県民は知らない。地元高校の先生や塾の先生すらそれを知らないことが理由の一つであろう。地元テレビで定期的に三重大学と連携した気象番組を発信することにより、それが習知され、偏差値が上がることに伴う入試効果が上がり、結果として三重大学ブランドが強化される。これは、メディアに広告料を支払わなくても大学の地元への宣伝活動を間接的に行うことになる。従って、大学側メディア双方に対してwin-winの関係が築かれる。

平成28年度活動状況報告書