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28_三重県において『未来の科学技術イノベーター』を育成する産学官連携プログラムの開発

【活動の概要】

1.本活動の背景、必要性、目的
  我が国は言うまでも無く、製造業を中核とした科学技術立国である。その科学技術力において世界をリードし、様々な製品を開発し輸出することで、国力を維持・発展させ、世界に貢献してきた。これを支えているのは『人』であり、資源に乏しい我が国においては人的資源の充実こそ最も重視されなければならない政策課題であると考える。
 ものづくり白書においても、我が国の競争力を支える次世代の人材育成が重要であるとしている。これに関わり、中央教育審議会は、キャリア教育・職業教育に関する答申において、進路意識が希薄なまま進学する若年層の増加を課題とし、この具体的な方策の1つとして、生涯学習の観点に立つキャリア形成支援を挙げている。しかしながら、科学技術立国を支える人材育成においては、製造現場では4K(きつい、汚い、危険、給料が安い)と揶揄され若者から敬遠されており、大学進学においても工学離れが進んでいる。義務教育段階においても理科離れや、ものづくり経験の不足などがマスコミ等で指摘されている。
 この要因の1つとして、小川は若年層の進路意識を挙げている(科学教育研究、第37巻第1号、pp.65・66,2013)。具体的には、この意識の形成時期である10歳から14歳において科学技術の職業に関わる有効な働きかけが行われていないことを指摘している。残念ながら、我が国においてはこの時期に科学技術の職業に関わる教育(主に技術教育)が学校教育に位置づけられていない。そのため、子ども達は将来の進路を考える際に、製造業に関わる職業を選択肢として意識していないのではないかと考察している。このことを踏まえ、この年代の子ども達に将来科学者・エンジニアを志すことを促す具体的な方策を試みることが急務であるとしている。
 野村総研が行った工学離れに関する調査(野村総合研究所:「工学離れ」の検証及び我が国の工学系教育を取り巻く現状と課題に関する調査研究報告書,2010)では、工学部の入学した学生における当学部を志した理由において、最も多かった「工学に興味があったから」の次に「工学部で学ぶ対処(ロボット、宇宙、建築物、環境、情報等が純粋に好きだったから」が示されている。このことは工学で学ぶ対象を純粋に好きと捉えることができる時期に、その対象に取り組める適切なプログラムを準備することで工学への志を育てることができることを示している。さらに、純粋に好きと捉える時期については、先に小川が指摘していたように、将来に大きな夢を抱く10歳から14歳であると考えられる。
 このことに関わり、本活動の代表者である魚住は2008年度から小・中学生を対象としたロボット製作合宿:「Jr.ロボコンin三重」を夏休みに開催している。この企画は、三重大学と三重県・津市・四日市市の工業振興課の各担当者で構成する三重県ジュニアロボコン実行委員会が主催するもので、青少年の科学技術への興味・関心を高めることを主なねらいとして実施している。活動としては、3泊4日の合宿において6~7名の班(全6班)で中学校創造アイデアロボットコンテストのルールに基づいた競技用のロボットを製作し、最終日にはロボコンとして、その成果をショッピングセンターなどの公開の場で広く市民の前で発表するものである。この活動はあくまでも小・中学生の科学技術への興味・関心を喚起するものであり、科学技術に関する職業への働きかけは目的としていない。また、大学と地方行政が連携して実施しているが、企業との連携までは至っていない。これらのことから、本研究での目的を達成するためには、この活動をさらに発展させることが求められている。
 以上のことから、本活動を通して『未来の科学技術イノベーター』を育成するプログラムを産学官の連携を基にして開発したいと考える。なお、本活動が育成したいと考えている『未来の科学技術イノベーター』とは、将来において科学技術に関わる職業を志し、イノベーションに挑戦しようとする青少年のことである。中でも小学校高学年から中学校に在籍する児童・生徒は、未来に大きな夢を抱いており、この時期に科学技術の職業に関わる適切な働きかけ(プログラム)を施すことで、優秀な人材を確保することができると考える。ただし、そのプログラムについては学校教育からのものだけではなく、社会において活用できる資源を総動員した取り組みが必要である。本活動では、地方(三重県)における大学・官庁・企業が所有する人的・物的資源を最大限に活用する枠組みを構築し、それを基に青少年に対する科学技術教育プログラムを開発し、実施することで、将来我が国を支える優秀な科学技術者を育成する。

2.活動内容
  2016年8月17日(水)~20日(土)3泊4日に、四日市市少年自然の家を合宿会場として、小学生:6名(四日市市、並びその近隣在住の5・6年生、性別不問)、中学生:36名(県内在住、学生・性別不問)を対象としたロボット製作合宿を開催し、最終日には環境未来館(四日市市博物館)において成果発表会(ロボコン)を開催する予定である。成果発表会では地域の小学生や幼児を対象としたロボット操作体験教室を開催する。
 具体的な準備スケジュールを以下に示す。
2月下旬     平成27年度 第2回実行委員会の開催(運営方針案の検討)
4月20日(水) 平成28年度 第1回実行委員会の開催(実施要項等の検討)
4月29日(金) 県内各中学校、並びに津市市内の小学校に参加資料(募集要項、ポスター等)を郵送し、受付開始
5月29日(日) 受付〆切
          ※定員に満たない場合は、6月中旬に追加募集を行う。
6月下旬    参加者確定、必要資料郵送
8月9日(火) 事前準備会1日目(学生研修、中学校指導教員等の打合せ、教材等の作製 等)
  10日(水) 事前準備会2日目(事前準備、最終打ち合わせ 等)
8月17日(水)~20日(土)  「Jr.ロボコン2016 in 三重」開催 
8月下旬~9月中旬 アンケートの回収と分析
9月下旬  反省会
10月中旬 実施報告書の作成と発送

3.期待される活動成果等
  何よりもまず、本活動を通して産学官の人的・物的資源を最大限に活用する枠組みを構築し、それを基に青少年に対する科学技術教育プログラムを開発することができることである。このことにより、将来我が国を支える優秀な科学技術者を育成することが期待される。2点目として、将来科学技術者の進路を選択しない子どもたちにおいても、この活動を通して科学技術への強い関心を持たせることができ、さらには科学技術へ積極的に関わろうとする意欲も高めることが期待される。3点目として本学の学生・教員が関わることにより、学生にとっては実際に子どもを対象とした教育実践に関わることができる「実地の学びの場」となり、教員にとっては教育研究での貴重なデータ収集の機会となることが期待される。

平成28年度活動状況報告書