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27_菰野町における地域バイオマスを使った地域内循環のしくみづくりによる一次産業・観光産業の活性化

【活動の概要】

1.本活動の背景、必要性、目的
 菰野町は、現在、「第5次菰野町総合計画(2011-2020年度)」の基本構想の中で「自然と調和したまち・持続可能なまち」をまちづくりの基盤とし、農業振興、林業振興、観光振興、関連産業振興を一体として展開している。特に、新名神高速道路・菰野インターチェンジの新設(2018年開通予定)を想定して、着地型観光事業・商品開発・グリーンツーリズムやヘルスツーリズムなどの特徴のある地域づくりの創出を目指している。この地域づくりにとって、町内のバイオマス資源の地域エネルギーとして利活用は地域経済振興の基盤的な要素を持っている。最近の町のとりくみとして、平成24年度には、第5次菰野町総合計画において「低炭素な地域づくり推進事業」を方針化し、「菰野町林産物有効活用調査(三重銀行総研に委託)」があり、平成25年度からは「菰野町森林資源有効活用調査」として、三重大学に委託研究が来ており、町内の森林賦存量調査等を実施してきた。現在、菰野町・三重大学は、町内の民間企業、NPO法人等と協力して、計画策定の準備段階にある。
 菰野町の森林は面積5,365ha(森林率 50%)、このうち民有林が5,389ha(人工林1,605ha, 天然林3,488ha)である。近年の間伐実績データ、地理情報システム(GIS)等を利用した森林賦存量調査から、スギ、ヒノキを中心とする人工林は集落や道路に比較的近い地域に存在し、林齢50年以上の成熟した森林が多く、蓄積量は多い(平成24年度菰野町から三重大学松村教授の研究室への委託研究による)。推定される総蓄積量は594,351m3あり、現有の林道等から100m範囲内の搬出可能蓄積量は36,433m3、 木質バイオマスとして利用可能な林材の合計は134,678m3である。間伐率を30%,15年間で町内全体を実施すると想定すると、搬出可能資源量は年間7,389m3と見積もられる。その35%を木質バイオマスとして利用すると、年間利用可能量は、2,694m3/年、含水率30%換算すると、1,430tと見積もられている。しかしながら、間伐材などは林地残材として放置され、その利用率はほぼゼロというのが現状である。
 一方、御在所岳の麓で1300年の歴史を有する湯の山温泉は、総収容人数一日1,200人、年間宿泊客約20万人、日帰り入浴客100万人(平成24年度データ)の三重県有数の温泉街であり、年間を通して、常時、熱供給の需要がある。湯の山温泉全体では年間170万リットル(約1.5億円)の原油使用がある(三重大学坂本研究室の推算値)。また、最近、湯の山温泉の源泉の空気中ラドン濃度が国内外のラドン療法地に匹敵する(約2万Bq/m3、三重県保健環境研究所)ことがわかり、健康作りや長期療養(湯治)といった観光・地域おこし資源としての活用の期待がある。
 このような背景もとで、町内の未利用の木質バイオマス(間伐材、林地残材など)を湯の山温泉を中心とした地域内で利用する地域内循環システムをつくりあげることが、菰野町の地域づくりにとって非常に重要である。このシステムは、(1)間伐促進や林地残材を行うことで地元の森林の活性化・森林保全を目指すこと。(2)これらの地元の木質バイオマスを地域において木質燃料化(木質チップなど)する地域産業を興すこと。(3)湯の山温泉・公共施設等での熱供給(木質バイオマスボイラを使用)を行うことで、温泉施設・公共施設の経営基盤の安定化を計ること。(4)結果として、地域エネルギーの地産地消、地域内循環経済、低炭素社会づくりを実現することを目的とする。

2.活動内容
 本活動は「菰野町における地域バイオマスを使った地域内循環のしくみづくり」を行うために以下の諸点を活動内容とする。
 (1)バイオマスの利用可能性調査(森林,農業作物,家畜糞尿など)
 (2)バイオマスの町内利用性調査(温泉施設、施設園芸ハウス、公共施設などのエネルギー調査(使用
   エネルギー量・熱量、使用燃料量、燃料費など)
 (3)燃料化工場に関する基本デザイン
 (4)上記のデータをもとに、バイオマス地域内循環システムの計画づくりを行い、事業主体を明確にした
   継続的事業プランの作成
 (5)地域の地域内循環事業への、住民参加のあり方の検討と実際の協議会

平成27年度は、平成26年度の調査を踏まえて、以下の項目について実施する。
 ①木質バイオマスの供給側(山側)の課題
間伐材などの木材の供給側としての山側の課題は、大きく4点ある。
 (a)これまでの森林調査を元にして、バイオマス利用可能量調査を再度精査することが必要である。間伐材だけではなく、未利用材、という観点から、①すでに林地に放置された林地残材、②主伐・間伐の際に発生する、追い上げ材、玉切り材、枝状その他、③公有地、私有地における選枝などで発生する枝木、④公共事業、災害緩衝林整備工事に伴う伐採木、⑤河川流木など、町内における、すべての未利用材の量的調査を行うことが必要である。
 (b)林道・作業道の課題である。間伐材を搬出するための林道及び作業道が十分整備されていない現状がある。計画的に間伐等を実施するためには、年度ごとの間伐計画と併せて、町内の林道及び作業道の整備計画を策定する必要がある。
 (c)施業する人材の課題である。現在、菰野町内の森林施業者は、ごく少数となっている。間伐材はあっても木を伐る人がいなければ何も進まない現状にある。そこで、アドバイザーとして、大学や企業の専門家や実際の森林施業者を行う民間事業体からの間伐材の伐採や搬出に関するアドバイスが必要である。高齢者の雇用なども視野に入れながら、町として、具体的な方法を模索する必要がある。
 (d)コストの課題である。集材コスト、運搬コスト、作業コストなどの各コストの明確なデータがないため、どの作業にどれだけのコストがかかるのかを具体的に算出する必要がある。また、木質バイオマスボイラーの需要側の課題としては費用対効果を具体的に算定する必要がある。導入するにはいったいいくらくらいの費用が必要で、導入したとしたら現在使用している灯油ボイラーなどと比べてどれくらい安くなるのか、減価償却を踏まえて何年間で元が取れるのか、そういった点を具体的な数字で示すことが必要である。
 (e)このような課題を解決するために、事業性評価を行う実証実験が必要である。たとえば、特定の林班を決め、選木、基本的な林班調査の後、実際の間伐を行う。この間伐材を山から搬出し、実際に燃料チップを作成する。作成したチップを用いて、研究所での木質バイオマスボイラーによる燃焼実験を行う。この一連の工程で、作業時間、作業人員数、作業コスト、材積、含水率などの基礎データを取得し、これらのデータをもとに事業化方針の策定を行うことが必要である。
 木質バイオマスの地域内循環のしくみの構築は、需要と供給のバランスをしっかりと見据えて、持続的なシステムである必要がある。ここでは、①すでにある菰野町内のポテンシャルを生かすこと、②小さな地域内循環をできるところからはじめること、が重要である。本調査であきらかになった結果から、以下のような3つの想定される現実的な循環モデルがあり得る。
 ① 間伐材木質チップ循環モデル
 ② 広葉樹・薪循環モデル
 ③ しいたけ床・木炭循環モデル
平成27年度は、これらの現実的な循環モデルの具体的検討を行う。