- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

南方の島で思うこと

本年5月、南太平洋大学と国立フィジー大学との連携のためフィジーを訪れた。4年前までは日本より直行便があったが、現在では韓国か香港かニュージーランドもしくはオーストラリア経由でないと行けなくなっている。そのため日本人観光客はほとんどいないが中国や韓国の人を多く見かける。確かに数年前には夢の島と銘打ったフィジー観光のパンフレットが氾濫していたが、現在では探すのに苦労する。大学間連携の合間の週末をリゾート地のナンディで過ごし、疲れを癒やした。民俗芸能、マリンスポーツなど楽しめる島である。

 南太平洋大学(University of the South Pacific)は、太平洋の12の小規模島嶼国家群が共同で設立した公立大学で、本部及びメインキャンパスはフィジー島に置かれている。この大学の特徴は衛星回線を使用した遠隔地教育の充実である。すべての加盟各国には地域のサテライトキャンパスが置かれ、本校からの通信授業がおこなわれている。これは2010年に日本のODA援助により大学内に建設されたJapan Pacific ICT Centerによって機能が維持されている。ここは南太平洋地域最大の情報通信センターともなっている。コンピュータ設備を整備した実験・実習・研究用の部屋、サーバー室、ネットワーク運用管理室、遠隔教育用設備、テレビ会議室、ICT関連学部・大学院の教員室などが置かれている。このセンターを起点として最先端技術研究、高度な技術教育の実現により南太平洋地域における教育、医療、災害予防と対策、交通運輸、地域振興等の拡大が推進されている。日本の大学でも見られないような素晴らしいセンターである。

フィジーはメラネシアに属しているがそこに住む住民はポリネシア人が多く文化も受け継いでいる。ポリネシア人は大男が多いのが目を引く。少し大げさであるがガリバー旅行記の巨人の国を思わせる。ニュージーランドやオーストラリアのラグビーチームや来日しているポリネシアからのラガーマンの巨大さと強靱さには驚かされるのを多くの人が感じているはずだ。

ラピタ人は、人類史上初めて遠洋航海を実践し、太平洋の島々に住み着いた民族でポリネシア人の祖先と考えられている。彼らはモンゴロイド系の民族で、元々は台湾にいたのだが、その一部は4,500年前頃に南下を開始し、フィジー諸島に 到達、そしてポリネシアのサモアやトンガに拡がっていったとされている。この地域からラピタ人の土器も出土している。この時に別のグループは黒潮に乗って日本列島にも渡っており、特に三重県や愛知県や和歌山県などに彼らの末裔が多いと言われている。骨格の類似性から、縄文人と現在のポリネシア人を形成した人種は共通するとされている。三重大学では紀伊半島に多いといわれている神経変性疾患を長年にわたって研究を続け、類似した疾患がミクロネシア系であるグアム島住民には見られるが、ポリネシアの人々に存在するのかは現在調査中である。疾患の類似性から民族の起源を追求する壮大な研究である。その成果が楽しみである。

ポリネシア人は体重に対する筋量と骨量の比率が他のあらゆる人種を大きく上回っている。そのため『地球最強の民』(最も強い身体を持つ人々)などと称されることがある。多くのポリネシア系移民を有するオーストラリアやニュージーランドでは、肉体を酷使するスポーツにおけるポリネシア系の人々の活躍が目覚しい。オーストラリアにおいては、一般的にポリネシア系の児童と白人系の児童とで身長を含む体格が大きく異なるため、少年ラグビーリーグでは、ポリネシア系児童の重量級部門を設置しようとの議論がしばしば起こっているという。

この大柄で筋骨隆々とした体形はどうして作られたのか? 食事ではと考えるが、タロイモが主食では可能性は低い。タロイモに特別な成分が含まれているとは思えない。昔の航海活動と深い関係があるとの説が有力である。当時の航海は、飢えや寒さなど、想像を絶するほど難儀なもので、これを克服し、子孫を多く残すのに、大柄で頑健な体形の者が生き残ったとする自然適応説である。長期間食べなくても巨大な肉体を維持できるように、胴部に脂肪がたまりやすい体質になったと考えられているが、本当のところは分からない。しかし、びっくりする大男、大女が多いのは確かである。

昭和40年代の高度成長期には「大きいことはいいことだ」をキャッチフレーズに突き進み成功を収め、大きなものへの憧れを持ち続けているが、「山椒は小粒でもぴりりと辛い」や「小さな幸せ、慎ましやかな幸せ」が人生にとって大切であることも忘れてはならない。