- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

三重大学伊賀研究拠点プロジェクトの仕掛け人たち
~"ゆめテクノ伊賀"竣工式にて~

 すでに新聞でも報道されましたが、4月3日に、伊賀市ゆめが丘にて、産学官連携地域産業創造センター「ゆめテクノ伊賀」の竣工式があり、参加しました。

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 この「ゆめテクノ伊賀」は財団法人「伊賀市文化都市協会」が伊賀市から委託を受けて建設・運営管理をするもので、この中に三重大学伊賀研究拠点がおかれます。総工費は約4億円。約千五百平方メートルの鉄骨3階建で、研究室、インキュベーション室、低温実験室、ホールなどを備えています。三重大学から教授8人が出入りして大学院生や企業の研究員合わせて30人程度が、地域の産学官連携に取り組み、共同研究やベンチャー育成を行います。

 研究テーマは「環境・食・文化」ということで、この地域にぴったりですね。廃なたね油からのバイオディーゼル燃料の精製プラントが5月に、この建物に隣接してできる予定ですし、食品などの抗酸化成分の研究をしておられ、黒にんにくを産学連携で売り出した生物資源学部教授田口寛さんは、こんどはここでバナナの加工製品の研究に取り組むようですよ。

 伊賀市長をはじめ、関係者の挨拶がありましたが、新学長の内田淳正さんの挨拶では、伊賀市が発祥の地である忍者や、俳句の創始者である芭蕉に触れ、また、医学的には、世界的に “橋本病”(Hashimoto’s thyroiditis)と名付けられている甲状腺機能低下症の発見者、橋本策先生が伊賀の出身であることをお話され、この地域が“忍耐と文化・学術”に秀でた地域性をもっていることをお話しされました。

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 伊賀市は三重大のある津市から約45km位でしょうかね。車で45分くらいかかると思います。国立大学も2004年に法人化されて再編・統合が強く促されたのですが、このような大学から離れた地域に、大学の分室のような産学官連携拠点を別に作るという発想は、「大規模化」「一元化」「統合化」「選択と集中」「効率化」などの戦略とは正反対の戦略ですね。

 しかし、世の中を見てみると、この大不況の時に、大型スーパーは苦戦しているのですが、地域にとってより身近なコンビニは健闘しています。必ずしも大規模化が、成功するとは限らないんですね。そういうことで、私は、伊賀研究拠点を産学官連携の「コンビニ戦略」と言うことにしています。ただし、コンビニも全国的な組織で統一的に管理・運営されているので、効率化が図られているんでしょうね。たぶん伊賀研究拠点も、孤立してしまってはだめで、三重大との頻繁の出入りが必要なのだと思います。

 さて、この伊賀拠点は、実に多くの皆さんのご尽力のおかげで実現しました。多くの皆さんに感謝をしないといけないのですが、その中でも、この伊賀拠点の仕掛け人ともいうべき人をご紹介しておきましょう。それは、この写真に写っている、上野商工会議所副会頭で三重県薬事工業会会頭、中外医薬生産株式会社社長の田山雅敏さんと、(株)上野ガス常務取締役の中井茂平さん、そして、三重大生物資源学部教授の前田広人さんです。

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 田山さんたちとは、私が学長になる前に学長補佐をやっていた時に、みえメディカルバレープロジェクトでドイツのバイオクラスターを視察に行った時にごいっしょさせていただいた時からのお付き合いです。最初は伊賀市に薬学部を誘致したいのだが、という話から始まり、それが、実現困難ということになると、前理事で研究担当副学長の森野捷輔さんの協力を得て、前田広人先生といっしょに幾多の障害を乗り越えて不屈の精神で尽力され、この伊賀研究拠点の実現に至りました。

 私も2006年11月12日に上野商工会議所60周年記念式典で、伊賀市長や市議会議員さんの前で講演をさせていただき、もし伊賀市が三重大学との産学官連携を進めるようとするのであれば、今がラストチャンスである旨を説明させていただきました。この一言が大きな効果を発揮したようで、当時の伊賀市長の今岡睦之さんは、講演が終わるとすぐに大きな決断をされました。この時は、ほんとうにドラマチックでしたよ。その後、今岡さんは三重大の生物資源学部教授会にわざわざお越しになって、伊賀研究拠点設立のために協力を要請されるという、三重大にとっても自治体の首長が直接お越しになるという過去に例のない力の入れようを行動で示されました。

 どのようなプロジェクトも、それが実現するまでには、多くの人のご協力とともに、有能な仕掛け人が必要です。田山さんは猛牛のようにぐいぐいと集団をひっぱるリーダーシップを発揮され、中井さんは人をまとめる調整能力をいかんなく発揮され、この二人は上野商工会議所の名コンビと言われています。そして、前田広人さんは、実に粘り強く伊賀研究拠点実現に奔走されました。3人とも底抜けに陽性で、困難に遭遇しても決してあきらめない粘り強さと信念をもっています。

 できあがってしまえば、竣工式は淡々と執り行われるのですが、その裏には必ずドラマがあるということですね。ちなみに、今回の建物の設計は、前田広人さんがスケッチをした絵が、ほとんどそのまま再現されているんですよ。