- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

ひな祭りの日に「どう学ぶ?新時代の生活習慣病治療」
~三重大学・鈴鹿医療科学大学合同公開講演会から耳より情報~

 3月3日のひな祭りの日の午後、三重大学・鈴鹿医療科学大学合同公開講演会が津駅前のホテルで開かれ、なかなかおもしろかったので、読者の皆さんにもお伝えしましょう。

 三重大と鈴鹿医療科学大とは、2007年の6月に包括連携協定を結び、いろんな事業をいっしょにやっています。この日は「どう学ぶ?新時代の生活習慣病治療」というテーマで公開の合同講演会を開いたんです。平日の昼間にも関わらず100人以上の人が集まりました。

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鈴鹿医療科学大学 作野学長

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三重大学 奥村研究担当副学長

 まず、三重県健康福祉部の高村康さんが、「三重県が期待する両校の連携について」お話されました。三重大医学部には医学科、看護学科があり、鈴鹿医療科学大には薬学部、鍼灸学部、医用工学部、保健衛生学部があって、重複するところはなく、二大学で、ほとんどの医療系をカバーしているんですね。二大学の連携により、三重県で進めている医療福祉の産学官民連携プロジェクト“メディカルバレー”がいっそう飛躍すると思われ、県も大きな期待を寄せています。

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 次に、糖尿病が専門で三重大病院教授の住田安弘さんが「糖尿病やメタボリックシンドロームを防ぐ食事とは~沖縄に学ぶ~」というテーマで話されました。住田さんは、風光明媚な伊勢志摩で、旅を楽しみつつメタボ対策にもなるという“ウェルネスの旅”の先生もしているんですよ。

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 皆さんはメタボ健診(特定健診)の基準の一つに腹囲があるのをご存知ですね。でも男が85cm、女が90cmと男の基準が小さいのは、日本だけのようで、三重県の住民の皆さんを対象とした調査では、女の基準を男より小さくするべきという結果だそうです。現在、国でも見直しが検討され、女性の基準が80cmくらいになるかもという噂も聞きますので、仮にそうなると、女性で“メタボ”といわれる人が今より増えることになりますね。女性の皆さんは今からご用心。

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 住田さんはメタボや糖尿病予防のための食事の大切さを、沖縄の“26ショック”を例にあげて話されました。沖縄は長寿の地として有名だったのですが、1995年に5位であった男性の平均寿命が2000年に26位に低下してしまったんですね。この大きな理由として、戦後急速に生活習慣がアメリカ化され、動物性脂肪の多い食事、自宅で夕食の後さらに外で飲食をする習慣、公共交通機関の不備による車社会などで、肥満が2人に1人にまで増え、糖尿病や心筋梗塞が多くなったことが考えられています。

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鈴鹿医療科学大学薬学部長の川西さん

 次に鈴鹿医療科学大薬学部長の川西正祐さんのイントロのあと、教授の櫻井弘さんが「糖尿病およびメタボリックシンドロームの新治療法を求めて」というテーマで話されました。櫻井さんのご専門はミネラルで、今までにもすばらしい一般向けの本を出しておられます。まず、平安時代の貴族、藤原道長が糖尿病であったことをお話しになり、次に、ご専門の研究について、亜鉛とバナジウムというミネラルが糖尿病に有効であることを動物のデータで示されました。もし人にも使うことができれば、これは、すばらしい薬になると思います。

糖尿病だった藤原道長をとインスリンの結晶 をモチーフにした記念切手

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 櫻井先生のご著書 

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 櫻井先生の写真が載っているスライド

 次は鈴鹿医療科学大鍼灸学部教授の佐々木和郎さんが「統合医療と鍼灸医学―ツボ(経穴:ケイケツ)とは何か―」というテーマで、361あるツボが、どのようなメカニズムで効くのかわかりやすく話されました。そして、このような伝統的な東洋医学などと、西洋医学の良いとこ取りをして合わせた「統合医療」を育てることが、これからの日本の医療にとって大切であることを強調されました。アメリカでは、すでに多額の国の予算を投じて「統合医療」の研究を進めているそうで、日本はせっかくすばらしい伝統医学を持ちながら、この分野で出遅れているんですね。

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 ちなみにハリ(鍼)の治療で “鍼管”(しんかん)という細い管をつかう“管鍼法”の発明者杉山和一は、三重県津市の出身とのことです。和一は江戸時代の藤堂藩(津藩)の家臣の長男として生まれましたが、幼いころに失明してハリの道に生きることを決心し、苦労をかさねて、江戸で開業。将軍綱吉にも認められ、視覚障害者のための教育施設「杉山流鍼治導引稽古所」を作ったことでも有名です。

 最後に鈴鹿医療科学大学鍼灸学部準教授の廖(リョウ)世新さんが「糖尿病の東洋医学的診断と治療」というテーマで、糖尿病に有効な漢方薬について詳しくお話になりました。

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 二つの大学の専門家があつまると、メタボという一つのテーマでも、幅広い、また、深い取り組みができることが聴衆に伝えられたのではないかと思います。 

 ところで、この日帰宅して、家に飾ってあるひな人形を見たとたんに、講演会で聞いた藤原道長が糖尿病であったことを思い出してしまいました。このひな人形は、一人娘のために今回で30回目の飾りつけになります。これで最後になるはずなんですけどね。 09030401S.JPG