- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

オバマ大統領にならった日本版グリーン・ニューディールに三重大も貢献できるぞ!!
~日本未来館での舩岡正光研究プロジェクト総括シンポジウムより~

   この縦割りカラーのミニカーはいったい何ものでしょうか?近づいてみると“電気自動車「コムス」、植物ボディー仕様”となっています。よく見ると第40回東京モーターショウ出品車両と書いてありますね。これはトヨタ車体株式会社が2007年の10~11月に開かれた第40回東京モーターショウに参考出品した車なんですね。ボディーが植物からつくられた素材でできた電気自動車とは、究極の環境カーといえるでしょう。

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   私がこの車を見たのは、1月14日(水)東京の日本科学未来館の7階です。新橋から“ゆりかもめ”に乗って“台場”の次の“船の科学館駅”で降りて徒歩約5分のところに“Miraikan”が建っています。この日は、(独)科学技術振興機構の主催で「リグノセルロースを解く」と題したシンポジウムが7階にある“みらいCANホール”で開かれていました。

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   このシンポは、2日間にわたって三重大の生物資源学研究科教授の舩岡正光さんの研究プロジェクトの総まとめをするもので、私も初日の冒頭にあいさつをしました。舩岡さんは“戦略的創造研究推進事業 発展研究(SORST)”という大型の研究資金を獲得して、共同研究者といっしょに彼が開発した技術を実用化へ橋渡しする研究を5年間にわたって続けてきたのです。この研究プロジェクト名は「植物分子素材の逐次精密機能制御システム」といいます。なんのことやらさっぱりわからんという人がほとんどだと思いますが、「コムス」のボディーとどのようにつながるのか、ごく簡単にご説明しましょう。

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   草と木をくらべると、草はふにゃふにゃなのに、木は堅くて家具や家を造る材料になりますね。なぜ、木は堅いのでしょうか?

   草も木もセルロース(繊維素)が主な成分なのですが、木にはセルロースに加えてリグニン(木質素)という物質が含まれ、この二つからできている構造(リグノセルロース)が、木の堅い骨格を形づくっているからです。人間は今までセルロースについてはいろいろな製品の素材として使ってきました。たとえば、紙や再生繊維(レーヨン)など。また、最近ではセルロースを糖に分解してエネルギー源としてのバイオ・エタノールをつくる研究もさかんですね。一方リグニンの方は、今まで有効に活用されてきませんでした。

   舩岡さんは木材から、セルロースおよびその分解物(糖)と、リグニンが分解してできるリグノフェノールの二つを、常温、常圧のおだやかな条件で、しかも同時に分離して回収する技術(相分離系変換システム)を開発したのです。リグノフェノールは低分子で液体(アルコールなどの有機溶媒)に溶け、それを再び堅いリグニンに合成することができるので、思い通りの形の物を作ることができるんですね。そして、リグニンはたいへん強度が強いので、自動車のボディーにも使えるというわけです。

 この日のシンポジウムでは、リグノフェノールという素材を使って、たとえば電池にも使えるかもしれないなど、実にさまざまな応用が可能であることが発表されていました。

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   リグニンは、生の木だけではなく、古い材木や新聞紙からもつくることができ、しかも何回でも再生可能なので、今まで、古くなった材木はすぐに燃やしてCO2として空気中に排出していたのを、いろいろな使い道に何度も繰り返して半永久的に使ってから、最後の最後にCO2に戻すことになります。これは、地球温暖化を防止するためにも有効ですね。

 おまけに、舩岡さんの発明した技術では、同時にセルロースや糖が分離できるので、こちらの方はバイオエタノールなど、さまざまな使い道があることは皆さんご存知ですね。まさに、木というものを、一つの無駄もなく最大限利用できる技術です。

   舩岡さんの技術の実用化に向けた製造装置(実験プラント)は、三重大キャンパス内や北九州市に造られ、この夢のような技術が実用化一歩手前まで来ています。あとはコストの問題などが残りますが、たとえば舩岡さんは、木材や廃材が集積される地域や場所に小さなプラントを造り、現場でたとえばリグノフェノールとアルコールにして輸送すれば、大工場に木材を集中化するよりも、輸送コストが抑えられて安価になり、それが地域再生にもつながるという構想をもっておられます。

   今日の早朝(深夜)にアメリカ大統領の就任式があり、オバマさんが未曾有の経済危機の中で、環境への投資をすることを明言されていましたね。このグリーン・ニューディールと呼ばれるオバマさんの政策にならって、日本も日本版グリーン・ニューディールに力を入れる必要があると思いますが、舩岡さんのプロジェクトが日本版グリーン・ニューディールに貢献できる日も近いのではないかと感じました。特に資源の乏しい日本は、炭素と水と太陽エネルギーで造られた素材を、最大限長く有効に何度も再利用することが、生き残りのために必須だと思います。

   なお、日本科学未来館の5階には、「地球環境とフロンティア」という常設展示がありますが、そこに、舩岡さんのリグニン活用の意味を説明しているコーナーがありますよ。東京へ行く機会のある人は、ぜひ立ち寄ってみてください。

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 「”お台場”から見た夕日と富士山」