- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

人工ふ化したウナギがこんなに大きくなっていた
~養殖研究所にて~

 11月11日、南伊勢町中津浜浦にある独立行政法人「水産総合研究センター」の「養殖研究所」を訪問しました。養殖研究所は五か所湾の中央に突き出た半島にあります。5月1日のブログで有名な「志摩ヨットハーバー」をご紹介しましたが、研究所とヨットハーバーは、半島を挟んでちょうど反対側にあります。

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 ひと通り養殖研究所の活動について説明を受けた後、五か所湾内を船で見学しました。この日は少し曇っており肌寒い日でしたが、波は静かで、かえでの葉のような形で入り組んでいる美しい五か所湾の眺めに心が癒されました。小さな島にある灯台もかわいいですよ。

 五か所湾では、主に真珠の養殖とマダイの養殖をしています。この湾は水深が浅く、マダイが日の光にあたると赤い色が黒っぽくなり、値がつかなくなるので、黒い覆いをかけているとのことでした。養殖研究所では、漁師さんたちと餌を減らして効率良く養殖する方法を研究しているとのことでした。

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 さて、次は研究所内を案内していただきました。3年前にもこの研究所を訪問した時は人工ふ化に成功したウナギの稚魚を見せていただきましたが、今回、そのウナギはずいぶんと大きく成長していました。

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 今商業として行っているウナギの養殖は、シラスウナギという稚魚を捕ってそれを大きくします。しかし、人工ふ化をしてシラスウナギまで育てることがなかなかできなかったのです。シラスウナギの捕獲量は最近激減しています。このままでは鰻丼が食べられなくなる日が来るかもしれません。ウナギは日本の川などで大きくなって、太平洋のグアム沖あたりへ泳いで行って産卵するとされ、卵からかえった稚魚が太平洋を渡って日本にたどり着いた時にはシラスウナギになっています。この間ウナギがいったいどのような環境でどのような餌を食べているのか、まだよくわかっていないのです。

 この養殖研究所で17年間もウナギの養殖の研究に携わってきた田中秀樹さんが、世界で初めて人工ふ化からシラスウナギまで育てることに成功しました。稚魚の間は、深い海の中で育つ環境に近づけるために暗い部屋で飼い、また、特別のえさを一定時間ごとに与えて、水の交換も頻繁に行うというたいへんな労力をかけておられます。現在約100匹のうなぎが育っていますが、卵からシラスウナギに育つ確率は約1万分の1という低い確率であり、商業化までには乗り超えなければならない壁がたくさんあるとのことでした。今後の目標は、シラスウナギが育つ確率を1000分の1に上げることと、人工ふ化して育てたウナギの次世代の子供を作ることとのことでした。

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 この水産研究所と三重大学の生物資源学研究科とは「連携大学院」を作っており、三重大の学生が養殖研究所でも研究指導を受けられるようになっています。研究所長の中野広さんと、三重大との連携をさらに実質化することについて話し合いました。水産総合研究センターは、全国に9つの研究所や各種センターからなる独立行政法人ですが、管理費年3%減、人件費年1%減という予算削減のために、国立大学と同様に苦しんでいるようです。

0811149.jpg  今、世界経済危機の影響で日本経済も苦しい状況が続くと思いますが、今こそ“米百俵”の精神で教育や研究開発への投資を続けるべきであり、それを続けることができた国だけが10年後20年後に生き残るものと思います。この点について中野さんと私の意見は全く一致しました。日本では小泉前首相が就任時に“米百俵”が大切であると言っておきながら、まったく逆の教育研究予算削減政策を行い、それがいまだに続いているわけです。

 もう一つ中野さんがおっしゃっていたことは、養殖研究所にも経済学者が必要であるということでした。研究者がすばらしい研究開発をしても、それが、社会経済に効果を与えるまでに至ならないと、つまり「イノベーション」までいきつかないとダメであるということだと思います。私もまったく同感であり、三重大では地域のイノベーションに貢献しようと、今までも実にさまざまな努力をしてきましたし、これからも力を入れようと思っています。