- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

地域農業のイノベーションを起こそう
~とっても楽しい三重大農場ツアー(その1)~

farm1.jpg  アメリカ発の金融危機に端を発して資源の争奪戦が世界中で起こり、油や食べ物の値段が上昇しましたが、食料自給率の極端に低い日本で、今ほど農業や漁業などの第一次産業の大切さを国民が身にしみて感じた時期はなかったと思います。三重大の生物資源学部にとっても、その本領を発揮する時期が来たと思っています。そんな状況の中で、9月22日の午後、生物資源学部の附属農場を視察しました。

 生物資源学部は、学生さんの実習や地域に根ざした研究のために「紀伊・黒潮生命地域フィールドサイエンスセンター」と名づけられた附属施設をもっており、それは農場、演習林、水産実験所からなります。農場は最初1921年に高等農林学校の農場として、メインキャンパス内に造られましたが、1970年に現在の新しい農場が大学から20分くらいのところにある伊勢自動車道の芸濃インターチェンジの近くに造られました。  

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 今回はセンター長で教授の平塚伸さん、農場施設長で教授の梅崎輝尚さん、次長で准教授の奥田均さんたちのご案内で三重大農場ツアーをさせていただきました。

 この、三重大農場ツアーは、1回のブログではとても紹介できませんので、今回はその中で、日本園芸学会の前々回のブログでも触れた「伊勢錦」と「松阪牛」についてご紹介しましょう。

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 まず、この写真は「伊勢錦」が実っている田んぼです。今、酒米(さかまい)で最も有名なのは「山田錦」という品種で、これから造られたお酒がコンクールでしばしば金賞を受賞しています。「伊勢錦」は山田錦に勝るとも劣らない幻の酒米と言われていたこの地域の品種ですが、弓形穂(ゆみなりほ)と言われ、穂が大きくて重く、背丈が高い稲では倒れてしまいやすく栽培されていませんでした。それを、三重大教授の松葉捷也(かつや)さんが短い背丈の品種を開発し、再び栽培されるようになりました。そして、三重県科学技術振興センターが開発した酵母「mk-3」を使って、地元の酒屋さんが醸造した純米吟醸酒が、全国新酒鑑評会で金賞を受賞したのです。

 写真をみていただくと、伊勢錦は弓形穂(ゆみなりほ)と言われるだけあって、穂が強くしなっていることがわかりますね。松葉さんはこれを「イナバウアー」とよんでおられるそうです。なんとなく発音が似ていないでもないですね。

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 次に、田んぼの近くにある牛舎を見せていただきました。ここでは学生の実習用に松阪牛が飼われているのです。松阪牛は子を産んでいないメスの黒毛和牛(但馬牛)で、松阪市周辺で飼育された牛のことですね。靴を消毒して牛舎に入ると、飼育を担当している技術職員の多田友子さんが、それぞれの牛の個性や空調管理や餌(エサ)のことなど一生懸命説明してくれました。

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farm9.jpg  ところで、牛には毎日ラジオを聞かせているそうです。この理由は見学者が訪れると、人の話し声に牛が神経質になるので、普段から人の声に慣れるようにという配慮でした。また、巷(ちまた)では、三重大の牛は月曜日になると体重が減っているなどという、とんでもない“風評”があるようですが、そんなことは全くないとのことでした。大学は週休二日制なので、休日に牛に餌をやらないのではないか、といういわれもない疑いがかけられたらしい。三重大農場では休日も交代勤務で、きちんと牛のお世話をさせていただいています。三重大産の松阪牛は穴場ならぬ穴牛かもしれませんよ。

 それから、この農場で学生の実習用に栽培された農作物などは、学内の教職員や住民の方々にも販売をしており、私もおいしくいただいているのですが、つい最近、東大の農場で、禁止されている農薬を使用していたことが報道されましたね。学長としては、ただちに生物資源学部長を通して三重大の農場の調査を指示しましたが、禁止されている農薬は使用していないという調査結果ですので、住民の皆さんはどうぞご安心ください。

 楽しい農場ツアーのつづきは次回です。