- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

「日本の再生は中小企業と農業から」(丹羽宇一郎氏)
~地方大学を含めた基礎研究開発に思い切った投資を~

niwa1.jpg    週刊文春の7月31日号の新聞広告で、伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎さんが「日本の再生は中小企業と農業から」という記事を書いておられることに目がとまり、さっそく買って読んでみました。丹羽さんは経済財政諮問会議のメンバーであり、また、地方分権改革推進委員会委員長も務めておられる財界の有力なリーダーのお一人です。

   実は昨年8月の末に、国立大学の学長さんたちが集まるセミナーで丹羽さんのお話をお聞きしました。「平成13年の遠山プランに大学の再編統合、民間手法、競争原理が掲げられたが全く進んでいない。それを、そのまま実行するのが大学の改革ではないか。」とのお言葉に、私は、当時の経済財政諮問会議の新自由主義的政策にもとづく地方大学切り捨ての論調がそのまま反映されている感じがして、やるせない気持ちでした。

   週刊文春の記事のタイトルは、私の頭の中の丹羽さんのイメージとは少し違うように感じたので、さっそく読んでみたのです。

   「戦後日本の成長をささえてきたのは優秀な中間層。いまこの中間層が痛めつけられています。全体の0.2%にしかすぎない大企業の給与のみが上がり、中小企業は下がっている。・・・私はいまこそ大企業が中小企業をバックアップすべきと考えます。 」

   「中小企業対策と並ぶ、日本の喫緊の課題は「農業政策」です。日本では、これまで農業に多くのお金が使われてきた。ただしそれは「コメを作らなかったら補償金をあげる」という、額に汗して働く美徳を冒涜するような使い方でした。本来なら日本の農作物を世界に通用するものにするための技術に投資すべきでした。」

   「こうした基礎科学への研究開発投資は、まさに国家百年の計をもって、国が主導して大学などと協力して取り組むべきことです。 しかるに日本政府は国立大学の運営に関する予算を年1%ずつ削減減らしている。さらに革新的技術を進めるために新たに投資しようとしているのは年間たったの140億円です。これは大手企業の投資金額にも満たない。世界における日本の地位を考えたら、これは相当恥ずかしいことです。」

   三重大は法人化前後から地域貢献に一生懸命とりくみ、中小企業さんとの共同研究数では、全国でトップ3に入っています。また、生物資源学部という農学部と水産学部がいっしょになった特色ある学部があり、この地域の農業、林業、水産業という第一次産業の技術革新に大いに貢献できる体制が整っています。

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   2003年の文部科学省「大学知的財産本部整備事業」の選にもれた三重大なのですが、今年、その後継事業の「産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム)」の「特色ある優れた産学官連携活動の推進」(30機関〔22件〕) 」に採択されました。三重大の計画では、A健康福祉産業活性化プロジェクト、B森林里山活性化プロジェクト、C農水産業活性化プロジェクトという3種類の「三重地域活性化プロジェクト」を設定し、その取り組みを通して「地域の中小企業による知的所有権を基にした成長」を推進することにしています。

  これは、まさに、丹羽さんのおっしゃることそのものですね。

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   つい先日7月29日に公表された国の21年度概算要求基準では、国立大学の予算について従来の年1%の削減に加えて、「重要課題推進枠」3300億円を確保するために、さらに2%削減が加わるとのことです。3%削減されれば、国立大学の機能に相当なダメージが生じると考えられます。今後、この「重要課題推進枠」を巡って各省庁がしのぎを削って争うことになると思われますが、教育や基礎科学の研究開発については、その性格上短期的な成果がでにくく、国民の生活にもすぐには影響しにくいので、他の重要課題に比べて優先順位が低くなるのではないかと危惧しています。

   丹羽さんのおっしゃるように、今のような苦しい時こそ、国家百年の計でもって、地方大学も含めた教育や基礎科学の研究開発に対して思い切った投資をお願いしたいと思います。