- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

学生さんに問題点を発見させるスキルを身につけよう
~ホッサム・ハムディさんの「PBL」実演から~

   お盆休みに入った皆さんも多いことと思いますが、例年になく暑い日が続いていますね。以前は「夕立」がザーと一雨降ってさっとあがり、なんとも言えない涼しさを感じたものですが、最近ではそんな風情がなくなってしまった感じがします。今では雨が降っても突然ゲリラ的な大雨となって死者が出たりしますから、とても「夕立」とは言えませんね。

   なぜ、こんなふうになってしまったのでしょうか?「地球温暖化の典型的な現象ですよ。」と言われれば、なるほどそうかと、何となくうなずいてしまう人が多いのではないでしょうか?

   ところで話は変わりますが、みなさん「PBL」ってどういう意味がご存じですか?

   今までの私のブログで何回か出てきたので、覚えているかたもおられるかもしれませんね。そうです、「PBL」は「Problem-based learning」または「Project-based learning」の略でしたね。

   前者は課題探求型学習とか問題解決型学習とかいう訳になり、後者はプロジェクト達成型学習ということになると思います。三重大では両方の意味で使っており、従来の講義に加えて、全学的に「PBL」授業を増やしつつあります。

   三重大の医学部では課題探求型の「PBL」を1997年から開始したので10年以上の歴史がありますが、世界の最新の流れに遅れないように、常に改善の努力をする必要があります。そのような状況の中で、「PBL」では世界的に有名な、アラブ首長国連邦シャルジャ大学副学長で医学部長のホッサム・ハムディさんが三重大で講義をされたので、参加しました。

PBL1.JPG    ハムディさんのご出身はエジプトで、もともとは小児外科医ですが、医学教育博士でもあり、WHOおよびユネスコの医学教育コンサルタントをしておられます。1979年から現在まで30年にわたりPBLに携わり、95年からバーレーンの「アラビア湾岸大学」の医学部長として教育の充実を図り、 アラブ諸国のなかで最も優れた医学校に贈られる賞を2006 年に受賞。現在はシャルジャ大学に移り教育改革に取り組まれています。

   ハムディさんは、「新しい知識を獲得するための出発点として“問題(Problem)”を用いるという原理に基づく学習方法」(Barrows, 1982)というPBLの定義から説明を始められ、PBLにはいろいろな考え方や、やり方があることを話されました。そして、三重大の学生に実際に講義室の前に出てきてもらって、チューターがどのように誘導して学生に問題点を発見させるのか、お示しになりました。

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   学生に与えられた事例は、肥満の患者さんが医者に診てもらったところ、その治療として手術の可能性を言われたというものでした。PBLには、事例を学生に見せるだけで、学生が勝手に問題点を見つけ出すというやり方もあるのですが、ハムディさんのやり方は、事例の作題者の意図する問題点を学生が発見できなければ、チューターが積極的に誘導するというやり方でした。これは「Guided Discovery Learning」(誘導発見学習)と呼ばれます。 (事例のスライド

PBL2.jpg    「この事例を見て何か思うことは?」の質問に、学生たちは最初とまどっていましたが、医者から手術をすすめられるような肥満はただごとではない、という問題点に気がつきました。「それでは皆さんは肥満の定義を知っていますか?」、「皆さんは肥満の分類を知りたくありませんか?」など、ハムディさんは実にうまく学生たちが問題意識をもつように誘導していきます。

   ハムディさんの実演は大いに参考になりました。PBLのチューターは、学生の問題発見を誘導するスキルを常に磨かなければなりませんね。いや、PBLだけではなく、これは、すべての教育者に求められることであると思いました。

   ゲリラ的な大雨は地球温暖化のため、という説明にうなずく人に、「では、地球温暖化になれば、どうしてゲリラ的な大雨が降るのですか?」と誘導するのが、教育者の最初の役目ということになりますね。