- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

地域企業のイノベーションをいかに進めるか?(その2)
~新しい大学院「地域イノベーション学研究科」に大きな期待~

   きょうの午前中、臨時役員会があり、新しい独立大学院「地域イノベーション学研究科」を三重大学として設置するという意思決定がなされました。これから文部科学省に申請をし、もし、認められた場合は平成21年度から修士および博士課程を同時に開講することになります。

   ところで、皆さんはわが国の大学院の問題点は何だと思いますか?いくつか問題点が指摘されていますが、博士課程を修了した方々の就職率が低いことは、最も大きな問題点の一つですね。06年度の就職率は58.8%とされており、そういう結果もあって、博士課程を希望する学生さんが少なくなり、07年度の志願者は定員(約2万3千人)の89%であったとのことです。

    なぜ、わが国の企業が博士課程修了生を採用したがらないかということについて、産業界からは、①複合的・融合的な研究がなされず、特定の専門領域に限られている、②研究中心で教育が不十分である、③所属する研究室における研究が中心で博士論文の作成の比重が高く、他の勉強を行う余裕がない、④サイエンスとテクノロジーのうち、テクノロジー部分の教育が特に弱い、⑤研究テーマや学術論文が企業のビジネスで必要とされているものと整合していないケースが多い、といった問題点が指摘されています。また、このような企業の求める付加価値が身についていないということと共に、博士課程を修了しても必ずしも優秀な人材であるという保証がないことから、企業としてはますます採用しにくくなるという悪循環も指摘されています。

   こう言われてみると、もっともな点ばかりで、大学人としては痛いところをつかれていますね。大学側からは、わが国の産業界が博士課程修了生をもっと採用するべきであるとの提言もなされていますが、企業にむりやり採用しろといっても長続きしないのではないでしょうか?やはり、まず大学側が企業の求める人材を育成することが先決だと思います。

th_innovation3.jpg    今回、三重大学が設置しようとしている「地域イノベーション学研究科」は、最先端の科学分野での高度な研究開発能力とともに、種々多様な情報をもとに、新事業・新製品の企画から製品化の実現までを完結できる「プロジェクト・マネジメントができる研究開発系人材」の育成をめざすものです。

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   このような実践的研究開発マネジメント能力を備えた人材を育成するために、専門的な教育研究指導能力のある教員に加えて、実践的企画能力を備えたプロジェクト・マネジメントの指導能力のある教員(PM教員)を配置して指導し、また、研究テーマについても、例えば地域企業が抱える悩みを克服するための具体策を探求するなど、企業のニーズに合ったものにします。他の大学には講義で経営学的な素養を身につけさせるコースなどを行っているところもありますが、本研究科では企業との共同研究を通して、実践                                                      的にマネジメント能力を育成する点が異なります。     「図をクリックすると拡大」 

   このような実践的研究開発マネジメント能力を備えた人材を輩出するという大学院は、他にはない新しいコンセプトの大学院です。まず「先端融合工学ユニット」と「総合バイオサイエンスユニット」の二つのユニットから始め、将来はこのユニットを社会のニーズに応じて増やしていきたいと考えています。

   この三重大学発の新しい大学院が、地域企業のイノベーションを進めると同時に、わが国全体の大学院改革の突破口になることを、大いに期待しているところです。