- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

「選択と集中」は諸刃の剣
~地方大学の挑戦(その5)~

   今までのブログで、大学間の格差拡大政策が地方大学の機能を低下させ、それが国際競争力を低下させる可能性を述べてきました。そして、それが実際に臨床医学研究の領域で起こりつつあることを述べました。

   しかし、11月に出された財政制度等審議会の建議書には

   「また、現行の配分ルールのままでは、国立大学法人間でのダイナミックな資源配分のシフトを行い、世界で通用する大学を実現していくことには大きな制約がある。したがって、平成22年度以降の第2期中期目標・計画に向け、「6月建議」でも述べたとおり、国立大学法人運営費交付金の配分ルールについては、国立大学法人の教育・研究等の機能分化、再編・集約化に資するよう、大学の成果や実績、競争原理に基づく配分へと大胆に見直す必要があり、平成19年度中にこれらの見直しの方向性を示すべきである。」

   と書かれており「傾斜配分」や「選択と集中」をする方針に変わりはないようです。

   私は、「選択と集中」はあくまで「手段」であり、使い方によって「目的」や「目標」の達成に利となり害にもなる諸刃の剣であると考えています。民間企業でも、「間違った選択と集中」をしてつぶれた企業はたくさんあると思いますし、わが国でも成果主義評価を導入し、逆に成果が低下した民間企業もありました。

   日本の大学への研究費の「傾斜配分」がどの程度か見てみましょう。早稲田大学理工学部教授の竹内淳さんの図を見ていただければ一目で分かるように、アメリカの大学よりもずっと急なのです。国はこの急なカーブを「選択と集中」によってもっと急にしようとしています。でも、この図をみていただいて、ただでさえ少ない地方大学の研究費を削って上位の大学に移して、果たしてアメリカに近づけるとお感じになるでしょうか?

   今、世界では、中国をはじめとする新興国が、急速に研究力を伸ばしています。「選択と集中」と称してわが国の地方大学の予算を削って旧帝大にもっていくようなことをしても、質的にも量的にも日本は圧倒されてしまうでしょう。再生医学の山中教授のように、世界に勝てる研究に対して「選択と集中」をして予算をつけることは必要であると思いますが、世界に勝てる研究の数がわずかではどうしようもなく、数も増やす必要があると思います。

   そのためには、地方大学にも世界に勝ちうる研究はたくさんあるので、むしろ、地方大学の潜在力を引き出すような「選択と集中」をしていただければ、わが国全体の国際競争力は高まることでしょう。それと同時に、世界に勝ちうる研究を育てるには、サッカーと同じように、やはり裾野の広さも必要です。

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