- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

低下し始めた医学研究の国際競争力
~地方大学の挑戦(その3)~

   さて、「地方大学の挑戦」と題したブログの三つ目ですが、今回は、私の専門の臨床医学に目を向けてみましょう。

   「トムソン・サイエンティフィック」という世界の学術論文の集計や分析をしている会社があるのですが、そのデータでわが国の「臨床医学」分野の国際的論文数を調べてみると、03~06年の4年間で約10%低下しています。ところが、世界では約7%増加しており、単純に差し引くと、わが国の国際競争力は17%低下したことにもなります。

   論文数は国、公、私大を問わず減少しているのですが、国立大の中で、旧帝大7大学とそれに続く8大学、地方27大学に分けて調べてみると、旧帝大は現状維持、それに続く8大で約5%、地方27大で12%低下していました。地方大が、わが国全体の国際競争力の低下に大きな影響を与えていることがわかります。ここで、地方大の国際的論文数のカーブを見ていただくと、旧帝大よりも急速に増えてきたものが2000年頃から低下が始まっています。旧帝大に追いつけとばかり、一生懸命レベルアップを図ってきた地方大学がこのころに息切れした感じを受けますね。

   では、なぜ、こんな事態になったのでしょうか?

   正確なことはわからないのですが、私は、以下のようなことが関係しているのではないかと考えています。

   地方大の国際的論文数が低下し始めたころに起こったこととして、国の「大学院重点化」政策があります。これは、旧帝大をはじめとする有力大に予算をつけて大学院を拡大・充実した政策です。地方大にはほとんど認められず、涙を呑みました。つまり、公平な自由競争の結果として格差が拡大したのではなく、政策的に格差を拡大させられたのですね。

   「研究費あたりの国際的論文数」は、臨床医学の分野でも、地方大の方が旧帝大よりも高い値となり、研究効率は良いのです。政策的な格差拡大によって、効率の良い地方大の体力が弱り、それが、わが国全体の国際競争力を低下させた一つの要因ではないかと思います。国は「科学技術創造立国」を掲げていますが、こんなことをしていては、かなわぬ夢になるのではないでしょうか?

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