- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

「選択と集中」についての最初の疑問
~地方国立大学の挑戦(その1)~

   皆さんは「選択と集中」という言葉をご存じですか?経営やビジネスの本を開くと、「戦略」の基本的な考え方として書いてありますね。「自社の得意とする事業分野を明確にして、そこに経営資源を集中的に投下する戦略」とされ、1980年代にGE(ジェネラル・エレクトリック)社のCEOであったジャック・ウェルチさんの戦略として有名になりました。ウェルチさんはGEのナンバー1ないしナンバー2の事業に注力する一方で、弱小事業は他企業へ売却ないし廃止等のリストラを行い、業績を飛躍的に向上させました。

  大学人も、昨年はこの「選択と集中」という言葉に大いに翻弄されました。

   昨年の5月21日に政府の「財政制度等審議会」が地方国立大学への運営費交付金を半減するという試算を出しました。これはまさに「選択と集中」によって地方大学を切り捨てようとするものでした。私は、緊急に記者会見をして、地方大学の教育・研究の成果や地域社会にいかに大きな貢献をしているか、データを示して訴えました。また、7月12日には、全国知事会が「各国立大学法人が安定的な運営の下で地域において果たしている機能や役割を発揮できるよう、十分考慮することを強く求める。」という要望書を政府に出しました。

   このような状況の中、昨年の12月14、15日に「地方大学の挑戦」というシンポジウムが岐阜大学で開かれ、私は「地方大学が潜在力を発揮できる政策を!」というお話しをしましたが、これから5回くらいに分けてお伝えすることにいたしましょう。

   昨年、政府のいくつかの会議で、大学改革についていろいろな意見が出されたのですが、「経済財政諮問会議」の民間議員さんの間では、どのような議論がなされていたのでしょうか?

   「現在の国立大学のうち。旧帝大を中心とした一部の大学は国際的に立派な研究成果をあげて、わが国の経済に貢献しているので、そこに財政投資を集中すべきである。しかし、国の財政状況は厳しいので新たに予算を確保することは難しいから、国際的な研究成果をあげておらず、わが国経済に貢献していない地方国立大学とか教員養成系大学などへの予算を大幅に削減して、旧帝大などへの予算増の財源にあてるべきだ。その結果、地方国立大学などがつぶれてもやむを得ず、国立大学は大幅に削減すべし。」*

   全国知事会は、大学には「国際競争力」だけではなく、「地域社会貢献」という大切な目的があるので、それを考慮するべきである、という主張をしたのですね。私も全く同感です。

   でも、もう一つ、「国際競争力」の面でも、「選択と集中」をして、果たしてほんとうにわが国の国際競争力が高まるのだろうか?というのが私の最初の疑問でした。皆さんはどう思われますか?

*文部科学省高等教育局企画課の松坂浩史さんの論文「「骨太方針」と政府関係会議の提言」、IDE現代の高等教育、pp55-63, No.496, 2007を参考にしました。