次世代に繋げていくESD(持続可能な開発のための教育)を目指して

2018.1.23

インタビュアー:広報室

今回は人文学部・地域イノベーション学研究科の朴 恵淑(ぱく けいしゅく)教授にインタビュー取材を行いました。

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-ESDの取り組みである「三重ブランドのユネスコスクールコンソーシアム事業」について教えてください。

三重大学は2009年に、日本の総合大学として初めてユネスコスクールに登録しました。文部科学省がユネスコスクールを管轄していて、加盟校を増やすことはもちろんのこと、質の高いユネスコススクール活動に力を入れています。ユネスコスクールコンソーシアム事業として、日本の拠点となる大学が5つありますが、三重大学はその拠点大学の一つとして日本のユネスコスクールをリードする積極的な活動を行なっています。三重大学では、環境・エネルギー・防災・生物多様性・気候変動(地球温暖化防止)・国際理解・文化財保全・男女共同参画など様々な活動を行っているので、ESD(持続可能な開発のための教育)は三重大学にとって非常に良いツールとなっていると思っています。

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三重大学において、環境学習は四日市公害、エネルギー学習は風力や太陽光などの再生可能エネルギー、また、山から川、伊勢湾に至る多様な自然環境を有することから命の多様性を守ることも関わっています。例えば、三重ブランドの真珠は、海の環境が悪くなれば当然取れなくなりますよね。特に、半世紀前に発生した四日市公害は、生態系の破壊はもちろんのこと、人間への健康被害(四日市ぜんそく)をもたらした負の遺産をいかにして未来の正の資産に変えるのかが問われています。また、三重大学には世界各国からの留学生も多いことから、国際理解にもESDが深く関わっています。

三重大学生は三重の誇れる三重ブランドだと思っているので、卒業するまでに様々な体験をさせてあげたいと思っています。特に、国内外のインターンシップや長期、短期の留学に多くの学生が関われるように情報提供をしています。
学生への関心を高めるために、例えば、私の授業には行政、企業、NPOなど様々な職種の関係者が講師となり、学生とのコミュニケーションを図るように試みています。1月にもトヨタ自動車、三重県、百五総合研究所、マスヤグループとの協働による企業のグローバル化に伴うモノ作り、男女共同参画への取り組みなどについて学び、自分は何ができるのかを考える機会としています。そうすることで、三重のために貢献でき、また、世界に羽ばたく優秀な人材が育てられると思います。このように、ESDは人づくりの大変有効なツールとなることから、知識と価値観、自分のアクションをどのように活かすのかを真剣に考え、住み良い人間環境づくりにも繋げられると思います。

今日、私はスカーフを巻いてきたのですが、絵柄はドリームキャッチャーです。私は、アメリカのヒューストン大学にも勤めておりまして、ヒューストン市は全米第4の都市として先端医療や航空宇宙産業で有名な町ですが、ヒューストン市より西は乾燥地域となっていてアメリカインディアンの居住区の一部となっています。自然に対するアメリカインディアンの考え方は実に素晴らしいものがあります。私たちが生きている現在の環境は全て未来からのお借りものなので、汚さず、枯らさず、使いすぎず、必ず未来へ繋がれるあり方で生きようとする教えです。だから、むやみにたくさん取ってはいけない、食べる分だけ取る、子孫のために残すなど、日本の自然観にも通じ合う価値観を持っています。そのお守りがドリームキャッチャーですね。環境地理学者である私は、とても感銘を受けまして、ドリームキャッチャーに込められている「現在は未来からのお借り物」の思想を忘れないように心がけています。

ESDは幅広い活動なので、分かりにくい面もあろうかと思います。大学というアカデミックな場をフルに活かし、多数を占める学生へ分かりやすくESD活動について伝え、三重大学生の多様なESD活動の見える化ができ、その結果として"三重大学生はすごい"と言われるようになれば、「三重ブランドのユネスコスクールコンソーシアム事業」は成功したと評価できますね。

-「三重ブランドのユネスコスクールコンソーシアム」事業を行なったことで以前と変わったことや得られた成果はありますか。

明らかに学生の活動内容や考え方が変わったと思います。例えば学生へのアンケートで、"自分が学んだことは将来有用だと思いますか"という質問に対して、初めは「わからない」と答える学生が多かったです。しかし、「三重ブランドのユネスコスクールコンソーシアム」事業の3年目となる今は、8割以上の学生が「そう思う」と答えるようになりました。「そう思わない」と答える学生はほとんどいませんでした。
私は、2対8の法則、または、2対6対2の法則について、6割を超えたら成功、8割を超えたら大成功だと思っていますので、これからも100%に向けて発展的展開を行うこととなります。

-三重大学は2009年にユネスコスクールに登録しましたが、ユネスコスクールの加盟校の増加や質的向上のためにどのような取り組みを行なっているのですか。

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三重県内の幼小中高校、中部地域や東京の大学からユネスコスクールについて問い合わせが多いので、頻繁に打ち合わせを行なっています。
質的向上の取り組み内容として、名張市や亀山市のユネスコスクールの中高生や三重大学生、韓国ソウル市と水原市の中高生と大学生との「日韓水環境フォーラム」が挙げられます。毎年夏休み期間中の4日間、韓国水原市に、日本から約20名、韓国から約100名が集まり、川の水質調査や森の生物多様性調査を行い、ユネスコ世界遺産の水原市華虹門の文化財保全、国際理解交流などをテーマに、一緒に考え、行動し、発表を行なっています。このような活動は、日韓の主要メデイアを通じて国内外へアピールしています。

「コンソーシアム」は、ラテン語で「連携、共同、団体」を意味することから、緩やかなネットワークによって個の強みをより強く、弱みを補っていくことで、相互のWin- Win的関係が成り立つ魅力的取り組みだと思います。持続可能な発展のために、より多くの関係者の参加や世代間交流のできる仕組みを作ることがこれからの課題になろうかと思います。

-「三重ブランドのユネスコスクールコンソーシアム」事業に対する文部科学省からの3年間の支援は終わったということですが、新たな取り組みは具体的に決まっているのですか。

はい。四日市公害に関する環境学習については、文部科学省及び環境省の研究費によって継続でき、エネルギー学習に関しては、中部電力との連携によって継続的に活動しています。生物多様性については、伊勢湾最大の干潟である松名瀬干潟を三重県初のラムサール条約へ登録させるべく、トヨタ自動車との連携によるアクア・ソーシャル・フェスとして年間1,000名以上の参加者が集まるなど大々的に展開しています。国際理解に関してはこれまでの日韓水環境フォーラムを通じて継続でき、気候変動(地球温暖化防止)に関しては、三重県と三重県地球温暖化防止活動推進センターとの連携によって三重県地球温暖化防止実行計画の策定及び省エネ活動、国連環境会議への参加を積極的に行なっています。

また、文化財保全や文化活動については、地元のNPOとの連携によって四日市市の伝七邸を拠点にして次世代育成を行なっています。つまり、文部科学省の支援によって種が蒔かれ、産官学民との連携によって花が咲き、次世代を担う人材によって次に繋がる仕組みができました。
特に、NPOとの連携による100年伝統継承倶楽部「伝七邸」は、ESDのさらなる発展のためのプラットホームとなり、三重大学生が中心となってESD活動を企画、運営できるインターンシップの場としての機能を持つようになっていますので、今後の発展が多いに期待できます。

-先生のお話を聞いていると、三重県はESDの取り組みをとても活発に行なっている印象を受けたのですが、他の県と比べるとどうなのでしょうか。

三重県は東海3県の中でもトップレベルで、日本全体でもトップランナーであると思います。特に、三重大学は産学官民の連携が強い大学です。三重県にはユネスコスクールが21校あります。数的には多くないのですが、地域性を活かした多様な活動内容から質的レベルには常に高い評価を受けています。

他県のユネスコスクール活動の多くが指導する先生の企画による似通った活動が多いのに比べて、三重県のユネスコスクール活動は、生徒や学生が中心となって企画、運営する活動が多く、実に多種多様なESD活動を行なっています。
例えば、四日市高校はスーパ・グローバル・ハイスクールとしてアジア諸国との国際交流活動、セントヨゼフ女子学園中高はウォーカソンという10キロを歩きながら募金活動を行い、アフリカの学校に文房具を送る国際交流活動、名張市と亀山市のユネスコスクールは合同で韓国ソウル市と水原市との日韓水環境フォーラムに毎年参加する国際交流・環境活動、三重中高は松名瀬干潟を三重県初となるラムサール条約登録に向けた生物多様性保全活動、木本高校はユネスコ世界遺産の熊野古道の英語によるガイド活動、ユネスコパークに指定されている大台町の小学校は森林の生物多様保全活動など、素晴らしいESD活動が挙げられます。

-先生はアクティブに様々な活動を行っておられますが、元気の秘訣などあるのですか。

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元気の秘訣は恩返しにあります。私は1983年に筑波大学大学院博士課程へ留学しました。そこでは、留学生に対する差別もなく、とてもあたたかく迎え入れてくれた印象があります。大変恵まれた環境の中で、私はやりたいと思ったことを行動に移すことができました。
これからは、今まで私に親切にしてくれた方や関わってくれた方をはじめ、みなさんにどのような恩返しができるのか、地域の方々と連携を組んで協力しながら積極的に活動していきたいと思っています。だからいつも元気じゃないとダメなんですね。世の中、良いことばかりだけではなくて失敗することもあります。そこでいちいち喜んだり悲しんだりしていられないと思うんです。なので、いつも元気にやっていくことが私のモットーかなと思います。
私が恩恵を受けたことの半分もまだ恩返しをしていないけれど、本当にたくさんの恩恵を受けて今まで来られたと感謝しています。だから少しでも恩返しをできることを考え、実行しなければならないのです。

私の研究室は、授業や会議などがない時はいつも開けてあるので、いつでも来るようにと学生に言っています。学生はだいたい夜中に来るんですね。この部屋に食べ物が置いてあるのは、お腹をすかせて来る学生のためにいつでも簡単に食べられるものを用意しておきたいと思っているからです。何かと食べ物があれば話が弾むんですね。だから、いつも元気なお母さんのような存在でいたいと思っています。

-最後に今後の目標を教えてください。

ドリームキャッチャーの役割をしたいと思っています。良い夢は通って実現できるように、悪い夢は捕まえて消えていくような、そのような役割ができればと願っています。良い夢を追いかける人でありたい。常に前向きに考えていきたいですね。これまでに実現できなかったこと、やりたかったのにできなかったことを諦めず、実現できない夢はないと信じ、これからも頑張り続けたいと思っています。夢が実現できなかったのは実力が伴わなかったことを自覚し、その時期が来るまで努力し続けたいと思っています。

もう一つ、韓国生まれ育ちながらも日本での生活が韓国より長い人、アメリカで夢を追いかけていた人、世界各地を回って様々な経験を積んだ人、多くの誇れる弟子を育てた教育者、日本での恩返しができた環境地理学者として、一世一代の大仕事として悔いのない素晴らしい本を出版したいと思っています。来年3月に出版できればいいですね。

研究者情報


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人文学部・地域イノベーション学研究科

教授 朴 恵淑(PARK, Hye-Sook)

専門分野:環境地理学(地球温暖化・生物多様性・大気汚染)
     四日市公害の総合環境科学研究「四日市学」
     持続可能な開発のための教育(ESD)
     環境政策・東アジアの国際環境協力(越境性大気汚染・PM2.5)

現在の研究課題:「三重大学人文学部・地域イノベーション学研究科」四日市公害から学ぶ『四日市学』  
        「三重大学・中部電力協働事業」エネルギー環境教育
        「文部科学省持続可能な開発のための教育(ESD)推進事業」三重ブランドのユネスコスクールコンソーシアム

【参考】

人文学部HP http://www.human.mie-u.ac.jp/

地域イノベーション学研究科HP http://www.mie-u.ac.jp/innovation/

教員紹介ページ(朴 恵淑) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1459.html

朴 恵淑HP http://park-eco.jp/