太古から続く花と昆虫の深い関係
 ~歴史から花粉媒介の究極要因を探る~

2015.9. 7

太古から続く花と昆虫の深い関係
 ~歴史から花粉媒介の究極要因を探る~
生物資源学研究科・准教授 塚田 森生

塚田准教授の写真

誰が花粉を運ぶのか

花が嫌いという人は少ないでしょう。色や形は様々で、よい匂いがするものも多いです。でも美しい花は、人間のためではなく、花粉を運ぶ生物、つまり、花粉媒介者を呼ぶために咲いているのです。さらに、花の色や形、匂いなどの形質は、呼びたい相手に合わせて作られています。例えば、ミツバチを呼ぶのは主に白や青、黄色の花で、匂いも少しします。白くて強く香る花はコウモリやガなど夜活動する生物を、赤くて大きな花は鳥を呼ぶことが多いといいます。
私が研究しているのは、「チェリモヤ」や「アテモヤ」などちょっと耳慣れないトロピカルフルーツの花粉媒介者です。これらの果物は多くの国で愛されていますが、放っておくと十分な数の果実がならず、多くの地域では人工授粉に頼っています。花は雌から雄へ性ステージを変える雌性先熟(しせいせんじゅく)という特徴を持ち、花弁は緑色で目立たないのですが、きわめてよい香りを放ちます。一体、誰を呼んでいるのでしょうか。

花が甲虫を利用する巧妙な仕組み

花の中から虫を採取して調べてみると、「ケシキスイ」という甲虫の仲間がたくさん採れ、実際に花粉媒介していました(写真)。ケシキスイは樹液から採れる種類もありますが、花から採れたのは傷んだ果物を好む種類のものでした。チェリモヤなどの花は蜜を出したりすることはなく、甲虫は訪花しても食べ物を得られるわけではありません。なぜ、そんな種類の虫が花に来るのでしょう?私は学生たちや共同研究者とともにこれを調べてきました。分かったのは、花は化学的に見て果物そっくりな香りを朝または夕(種類により異なる。チェリモヤは夕のみ)のわずかな時間だけ出して、果実食性の甲虫を誘引しているらしい、ということです。一度訪花したら香りがなくても花にとどまり続け、雄になった花から花粉を身につけて出て、次の雌の花に移って雌しべに花粉をつけることも分かってきました。

生態系サービスの解明と活用

花粉を運ぶ昆虫といえば、真っ先にミツバチが思い浮かびます。実際、ミツバチは様々な農作物の授粉に欠かせません。研究も進んでいます。しかし、被子植物が裸子植物から分かれたのは1億年以上前の中生代初期のことである一方、ミツバチはせいぜい3000万年前、新生代になってようやくこの世に現れたのです。したがって、古い被子植物はミツバチに頼らない花粉媒介システムを高度に発達させ、それに応じて様々な昆虫が花粉媒介に働いてきたのです。実は、チェリモヤなども原始的な被子植物で、必然的にミツバチには頼れませんでした。野生生物の持つ有用な機能のことを生態系サービスといいますが、花粉媒介はその最たるもの。古くから続く花と昆虫の関係を解明することで、これを農業などに活かすことができるのではないかと考えます。実際、人工授粉に頼ってきた農家が私たちの研究を活用し、甲虫を増やして花粉媒介することで効率よく農作物を生産し始めています。とはいえ、これはほんの一例で、今も、誰にも気づかれないまま多様な昆虫が農作物の授粉に働いています。生態系を保全する重要な理由はこんなところにもあります。

【この記事は『三重大X(えっくす)vol.34』(2015年7月発行)から抜粋したものです】