新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、重症例において急性肺障害(ALI)を併発し致死的な呼吸不全を引き起こすことや、高頻度で血液凝固異常を引き起こし血栓症が多発することが知られています。また近年、細菌叢がCOVID-19の重症化に関連することが報告されていますが、詳細なメカニズムは不明でした。このたび、三重大学大学院医学系研究科免疫学講座の研究グループは、同グループが発見した細菌由来の細胞死を誘導するペプチドであるcorisinがCOVID-19患者の血液中で増加し、血液凝固マーカーと関連することを明らかにしました。さらにCOVID-19のウイルスであるSARS-CoV2のスパイクたんぱく質を気道内に投与して作成した急性肺障害のマウスにおいて、corisinを抑制することにより病態が改善することを明らかにしました。今回の研究成果は、細菌が産生するペプチドがCOVID-19に関連する急性肺障害や血液凝固異常の原因物質となりうることを示す世界で初めての報告であり、細菌由来のペプチドを標的にした新しい治療法の開発につながることが期待されます。研究結果については、国際血栓止血学会の学会誌であるJournal of Thrombosis and Haematosis オンライン版に令和6年3月5日付けで掲載されました。
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医学系研究科 代謝内分泌内科学・免疫学 講師
安間 太郎(YASUMA Taro)
専門分野:代謝内分泌内科学 免疫学
現在の研究課題:糖尿病 糖尿病合併症 細菌叢
医学系研究科 免疫学 教授
ガバザ エステバン(GABAZZA Esteban)
専門分野:免疫学、呼吸器内科学
現在の研究課題:呼吸器疾患 凝固系
■ヒト胚でどのようにリンパ管ができていくのかを解明
■ヒトリンパ管の臓器ごとの多様な発生や静脈とリンパ管の接合部(静脈角)の発生過程を解析
■ヒトとマウス胚では、リンパ管発生のスピード(時間経過)が全く異なる
概要
三重大学医学部医学科5年 山口翔一郎、4年 南出夏葵、三重大学大学院医学系研究科 修復再生病理学 研究科内講師の丸山和晃らは病理診断の残余検体に含まれるヒト胚を集積し、ヒトでリンパ管がどのように形成されるのかを解明しました。
研究グループはこれまでも、マウスを使用し、リンパ管の由来が体の上部(頭頸部から縦隔)と下部で異なり、この由来の違いがヒトでの先天性の脈管疾患の原因となっている可能性などを報告してきました(文献1-3)。しかし、リンパ管の発生や生理的な役割は種差が非常に大きく、ヒトで実際にリンパ管がどのように形成されるのか、マウスの知見がそのままヒトに適応できるのかどうかは解明すべき問題でした。
本研究開発課題では、3〜8週の胚と9週の胎児標本を使用し、①リンパ管が魚類・マウスと同様に静脈内皮細胞の分化転換で形成される事や、②体上部リンパ管が体幹部のリンパ管と比較し、非常にゆっくりと発生すること、③静脈角が初期リンパ管(リンパ嚢)と総主静脈の結合部にリンパ管と静脈を境界する弁が形成され形成される事、④様々な臓器ごとにリンパ管がどのように多様な分布を獲得するのかを明らかにしました。
本研究で、ヒトでのリンパ管初期発生が明らかになり、リンパ管の進化・発生、リンパ管関連疾患(リンパ浮腫、肥満、心血管疾患、クローン病、先手性脈管奇形など)の病態解明に役立つことが期待されます。
研究成果は2024年2月14日に「The EMBO Journal」誌に掲載されました。
論文タイトル: The development of early human lymphatic vessels as characterized by lymphatic endothelial markers
DOI:https://www.embopress.org/doi/full/10.1038/s44318-024-00045-0
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三重大学医学部医学科5年
山口 翔一郎(Yamaguchi Shoichiro)
三重大学医学部医学科4年
南出 夏葵(Minamide Natsuki)
三重大学医学部附属病院病理部 准教授
今井 裕(Imai Hiroshi)
三重大学大学院医学系研究科 産科婦人科学 教授
池田 智明(Ikeda Tomoaki)
三重大学大学院医学系研究科 腫瘍病理学 教授
渡邉 昌俊(Watanabe Masatoshi)
三重大学大学院医学系研究科 修復再生病理学 教授
今中(吉田) 恭子(Imanaka-Yoshida Kyoko)
三重大学大学院医学系研究科 修復再生病理学 研究科内講師 ※責任著者
丸山 和晃(Maruyama Kazuaki)
■ ホンモロコの回遊生態について、稚魚を標識放流し、漁業者が捕獲した魚を解析して検証
■ ホンモロコが琵琶湖を広く回遊したのち、産卵のために生まれ育った場所に回帰することを発見
■ ホンモロコの資源回復を図る上で、琵琶湖各地での産卵保護の重要性を提示
近畿大学農学部(奈良県奈良市)水産学科准教授 亀甲武志、京都大学生態学研究センター(滋賀県大津市)准教授 佐藤拓哉、三重大学生物資源学部(三重県津市)准教授 金岩稔、滋賀県水産試験場(滋賀県彦根市)石崎大介、桑村邦彦、岡本晴夫、井出充彦、根本守仁、藤岡康弘、公益財団法人滋賀県水産振興協会(滋賀県草津市)竹岡昇一郎、京都大学フィールド科学教育研究センター(京都府舞鶴市)准教授 甲斐嘉晃、京都大学農学研究科(京都府京都市)助教 中山耕至らの研究グループは、コイ科魚類のホンモロコが、生まれ育った場所から琵琶湖を広く回遊した後に、産卵のために生まれ育った場所に高い確率で回帰することを明らかにしました。
コイ科魚類が産卵のために生まれた場所に回帰することを確認したのは世界初の成果であり、琵琶湖の重要水産魚種であるホンモロコの生態解明や資源回復に貢献することが期待されます。
琵琶湖の重要水産魚であるホンモロコ
本研究成果に関する論文が、令和6年(2024年)2月13日(月)に、水産学における国際的な学術誌 "Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences(カナディアン ジャーナル フィッシャリーズ アンド アクアティック サイエンス)" にオンライン掲載されました。
Apparent migration and natal homing of a small minnow in a large ancient lake(広大な古代湖における小型コイ科魚類の回遊と産卵回帰)
https://cdnsciencepub.com/doi/10.1139/cjfas-2022-0207
詳しくはこちらをご覧ください。
生物資源学研究科 准教授
金岩 稔(KANAIWA Minoru)
専門分野:水産資源学、保全生態学
近畿大学農学部 水産学科 准教授
亀甲 武志
京都大学生態学研究センター 准教授
佐藤 拓哉
滋賀県水産試験場
石崎大介、桑村邦彦、岡本晴夫、井出充彦、根本守仁、藤岡康弘
公益財団法人滋賀県水産振興協会
竹岡 昇一郎
京都大学フィールド科学教育研究センター 准教授
甲斐 嘉晃
京都大学農学研究科 助教
中山 耕至
三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程3年の八木原風さんは、同研究科の森阪匡通教授(共同責任著者)、吉岡基教授(現・三重大学理事)、および京都大学野生動物研究センターの村山美穂教授(共同責任著者)、同センター博士後期課程の斉惠元さん、新井花奈さん、東海大学生物学部の北夕紀准教授、御蔵島観光協会の小木万布さんとともに、糞の中に含まれるイルカのDNA情報を用いて年齢を推定する手法を開発しました。イルカをはじめ野生動物の年齢推定には、寿命を超える長い期間での観察研究や、動物の捕獲を必要とする方法が一般的であったため、長寿の野生動物の年齢推定はきわめて難しい状態でした。本研究は、野生水生動物の糞などの非侵襲的な試料由来のDNAに対して、初めてエピジェネティッククロック解析に成功した画期的な研究成果です。ミナミハンドウイルカの生態理解と保全に役立つのみならず、他の野生動物への応用への第一歩となる可能性があります。
年齢は、生物を理解するうえで大切な「生まれ、成熟し、死ぬまでのサイクル(生活史)」をきちんと知るために欠かせない情報です。また年齢は、私たちが人口ピラミッドから未来を考えるのと同じように、長い寿命を持つ生き物の未来の個体数を予測する上でも役立ちます。野生動物の年齢は、長期観察研究や、その動物の生体試料(歯など)を用いて推定するのが一般的ですが、長寿の動物の観察研究は難しく、歯などの生体試料を採取することによる野生動物へのストレスや悪影響のみならず、研究者自身がさらされる危険も存在します。したがって、動物にも研究者にも安全で、簡単に採取できる試料から年齢推定する方法が求められています。ヒトにおいて、エピジェネティクスと呼ばれる遺伝子の転写・翻訳を調整する仕組みに見られる変化が老化と関連することが明らかになってきました。そして近年、エピジェネティクスの1つである「DNAのメチル化」と呼ばれる現象の頻度を用いた年齢推定がヒトで実現されました。本研究ではこの年齢推定方法をイルカの糞から抽出したDNAに応用しました。
糞から抽出したDNAは濃度が低いため、解析しても結果が得られなかったり、同じサンプルの解析結果にばらつきがあったり様々な課題がありましたが、36個のサンプルからGRIA2とCDKN2Aという2つの遺伝子領域におけるメチル化率を測定することに成功しました。得られたメチル化率と実年齢の間には相関関係が認められ、ミナミハンドウイルカの50年程度の寿命に対して、平均5歳程度の誤差での年齢推定が実現できました(図)。本研究は、野生の水生動物の糞などの非侵襲的な試料由来のDNAに対して、初めてエピジェネティッククロック解析に成功した画期的な研究成果となりました。
これまで糞由来のDNAを用いた年齢推定はヒトや家畜、野生動物において研究例がほとんどありませんでした。DNAは水と触れ合うことで分解されるため、今回の成功は糞に含まれるDNAの保存により適した陸生哺乳類にも応用できる可能性があります。つまり非侵襲的な試料を用いた年齢推定手法によって、希少種や大型で捕獲が困難な種などからも年齢情報を得られることが期待されます。年齢情報を得ることでその種の生活史をはじめとした生態の理解が進みます。また、生活史と人口ピラミッドとを組み合わせることで、その動物の将来の絶滅リスクを統計的に予測し、保全策を考えることもできます。糞を利用した年齢推定を通して、野生動物の生態の理解が進み、動物と人類の共存につながることが期待されます。
糞をするミナミハンドウイルカ
図. 実年齢と糞中のDNAから推定された年齢の関係。青の波線は平均誤差を示す
本研究は、国際学術誌「Molecular Ecology Resources」に2023年12月2日にオンライン掲載されました。
Non-invasive age estimation based on faecal DNA using methylation-sensitive high-resolution melting for Indo-Pacific bottlenose dolphins
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1755-0998.13906
詳しくはこちらをご覧ください。
生物資源学研究科 博士後期課程
八木 原風(Yagi Genfu)
専門分野:鯨類学
現在の研究課題:ミナミハンドウイルカの非侵襲的年齢推定法の開発とそれを駆使した生活史の研究
生物資源学研究科 附属鯨類研究センター 教授
森阪 匡通(MORISAKA Tadamichi)
専門分野:生物音響学・動物行動学・鯨類学
現在の研究課題:鯨類における興味深い行動の記載・鯨類の保全に関わる要素技術の開発・鯨類のコミュニケーションや社会に関する基礎研究
生物資源学研究科 教授(理事)
吉岡 基(YOSHIOKA Motoi)
専門分野:海生哺乳動物学・繁殖生理学
現在の研究課題:鯨類の繁殖生理機構の解明・伊勢湾に生息するスナメリの生態解明
京都大学 野生動物研究センター 教授
村山 美穂(Murayama Miho)
専門分野:野生動物分子生態学
現在の研究課題:動物のDNAデータベースの整備、動物の性格の遺伝的背景の研究、年齢や血縁、性別などの生物学的な基礎情報を遺伝子から探る研究
京都大学 野生動物研究センター 博士後期課程
斉 恵元(Qi Huiyuan)
専門分野:エピジェネティッククロック
現在の研究課題:ネコ科動物におけるエピジェネティック時計の開発
京都大学 野生動物研究センター 博士後期課程
新井 花奈(Arai Kana)
専門分野:エピジェネティッククロック
現在の研究課題:アジアゾウにおけるエピジェネティック時計の開発
東海大学 生物学部海洋生物科学科 准教授
北 夕紀(Kita Yuki F.)
専門分野:海棲哺乳類のゲノム生物学
現在の研究課題:小型ハクジラ類の遺伝的多様性や群れ構造の解明
御蔵島観光協会 事務局長
小木 万布(KOGI Kazunobu)
専門分野:保全生物学・鯨類学
現在の研究課題:御蔵島周辺海域の鯨類の保全研究、御蔵島の動物相の記載
今回は、教育学部 学校教育コースの中西良文(なかにし よしふみ)教授にインタビュー取材を行いました。今回のインタビュアーは、みえみえ学生広報室員(教育学部1年 坂口莉菜)です。
-はじめに先生の専門分野・研究テーマを教えてください。
中西心理学の中でも学習心理学と呼ばれる分野を研究しています。研究を通して、人の学びについて心理学の観点から考えています。研究テーマは、主に3つあり、1つは、やる気やモチベーションともいわれる「動機づけ」についての研究です。他には、「学習方略」という学習のやり方についての研究をしています。さらに、「協同学習」についての研究もしています。具体的には、人と人が関わり合いながら学んでいくことで、学習の効果が上がっていくということがあるので、どのような課題をどのようなグループで取り組むと効果があるのかというのを研究しています。
-学習のやり方にはどこまで研究として踏み込まれるのですか。
中西「学習方略」の研究には、いろいろな学習場面に応用できるようなものがあります。一般的によく言われる例をあげると、ただ丸暗記をする勉強法は良くないと言われる一方で、理解をしながら学習をしていくやり方は効果的だとされています。他には、自分がやったことをしっかり振り返るというようなモニタリングと呼ばれるやり方が効果的だと言われていたり、学習をする前にどのようにやっていくのかというような見通しを立てて、その見通しを踏まえて進めていくと学習の効果が上がりやすいと言われていたりします。その一方で、文章を読解する際にどのようにすれば効果的な読解ができるかというような教科や教材に合わせた「学習方略」の研究もあります。
-教科別の学習方法まで踏み込む際に、先生があまり深く研究されていない分野に直面することがあると思いますが、どのようにアプローチされているのですか。
中西たしかに、専門ではない部分は、なかなかわからないところがあったりするので、そのような時は、その分野の専門家の方と一緒に協同でやるなどして研究を進めていますね。
-国語の専門家や理科の専門家などいろいろな専門家の方と交流する機会が多いのですね。
中西そうですね。教育学部には、教科の専門家の方が集まっているので、その方たちと話しをしている中でいろいろなヒントをいただけたりします。
-研究をしていく中でおもしろいと感じるのはどのような時ですか。
中西心理学は、データを分析して、その分析した結果から様々な議論をする学問です。データをとり、分析してわかった結果をみておもしろいなと感じる時があります。「やっぱりそうだったのか」と思うような結果もあれば、「あれ、これって常識とは違うんじゃないのかな」と思うような意外な結果が出てくることもあり、それについて「どうしてこの結果がでてきたのだろう」と考えたりするのがすごくおもしろいと感じる時間です。
-具体的におもしろかった研究はありますか。
中西今、「自己効力感」についての研究を進めています。「自己効力感」というのは、自信のようなものです。新しいことを学ぶときに自分の考え方を変えられる自信を持っていると、その自信の高さが学習の成果につながっていきます。しかし、自分の持っている考え方が正しいという自信があると、考え方を変えなければならない学習をするときに、逆に足を引っ張ってしまうというような結果がみられました。自信というものが良い影響をするだけではなくて、良くない影響も与えることがあるのだとわかったのがおもしろかったですね。
考え方を変えなければならない学習とはどのようなものかを説明する際に、「さかなはさかな」(著 レオ・レオニ)という本がよく取り上げられます。どのような話かというと、さかなが小さいころ、おたまじゃくしと友達になります。その後、そのおたまじゃくしは、大きくなりかえるになって、池から出ていきます。そして、さかなに外の世界で見たことを教えてくれるのですが、さかなはさかなしか知らないので、たとえば人間という生き物をさかなに足が生えた生き物だとイメージしてしまいます。この話から、新しいものを学習するときには、今まで自分が学んできたものを土台として学んでいることがよくわかります。そして、われわれが学ぶものの中には、今まで学んできたことから離れないと理解できないものもあり、そのような学習は難しいので、それを研究しているという感じです。
-学習心理学や動機づけの研究が学校教育の現場でどのように活かせると思われていますか。
中西学校の中で一番多くの時間を過ごすのが授業だと思います。授業の中で学習についていけないと子どもたちが辛い思いをすると思うので、そのような思いをする子どもたちが少しでも少なくなるようにしたいと思っています。「動機づけ」に関わることだと、やる気があると授業も楽しく受けられるということがあるので、授業を受ける時間を楽しいものにすることにつながっていくと思っています。また、学校の授業を受けるのは学ぶためなので、そこでの成果が高くなっていくということにもつながっていくと思います。それから、教職大学院にも関わっているので、大学院生(現職の先生や大学を卒業してすぐに大学院に進んだ学生)に学習の話や「動機づけ」の話を伝えていくことを通して、学校の現場の先生にもそれらを活用してもらえるのではないかと思っています。
-普段、どのように研究を進められていますか。
中西アンケートや実験を通して実際にデータを取って進めていきます。
-先生の研究では、データの対象は、どれくらいの層になりますか。
中西学校での学習に注目しているので、小学生、中学生、高校生、大学生ですね。ちなみに大学生は、かなり難しいことをやってくれるので、大学生が研究対象になることは多いです。小学生や中学生だと知り合いの先生の学校にアンケートをお願いしたりします。
-なぜ研究者の道を選ばれたのですか。
中西初めは、小学校6年生の時の先生の授業がとてもおもしろく、「勉強するのっておもしろいな」と思ったので、小学校の先生になろうと思っていました。その時、面白い授業ができる先生になりたいなと思ったので、心理学がそのようなことをやっていそうだと思い、大学で教育学部の心理学のコースに入りました。そこで学ぶ中で、『「おもしろい」とか「やる気」とかをもっと勉強したかったけれど、思っているほどそのような勉強ができなかったな』と感じていました。「おもしろい」とか「やる気」に関して自分が知らないことがまだまだあるだろうという思いがあったので、研究の道に入ってそのあたりをさらに研究していきたいなと思って研究の道に進んでいきました。
三重大学教育学部の出身なので、教育実習を経験して、やっぱり先生になりたいと思ったこともあったのですが、大学院にもいきたいなという思いもありました。当時、現場の先生が大学院に来られていて、その先生に「自分は教師になって大学院に行きたい」と話したところ、教師になってから大学院に行くのは運も影響するから、絶対に行きたいのであれば、卒業してそのまま大学院に行った方がいいと言われて、それだったら大学院に行こうかなと考えました。その時に「やる気」とか「動機づけ」の話を追求したいと思ったので、そういった研究をされている先生がいる大学院に行くことにして、その先生の研究室に入り、研究者の道に進んでいったという感じです。
-大学院に進んでからは小学校の先生になりたいとは思われなかったのですか。
中西大学院で研究者としてやっていっても、学校の先生ではないけれども、子どもたちとは関われるかなという風に思っていました。それに、小学校の先生で研究の世界にどっぷりつかることはできないだろうなとも感じていました。小学校にも関われるし、研究にも関われるというポジションだと研究者なのかなと思ってからは研究者として進んでいましたね。でもやっぱり学校の先生への魅力というか子どもと関わることができたらいいなという思いはずっとありました。この研究テーマ(「やる気」や「動機づけ」)で研究を続けていて、三重大学に着任して学校現場と関われているのはすごく幸せだなと感じています。
-最後に今後の目標や予定を教えてください。
中西学校現場において、子どもが楽しいと思ったり、おもしろいと思ったりしながら成長していけるような環境を作っていくところに研究者として貢献できるような関わりができればいいなと思っています。
研究者情報
教育学部 学校教育コース
教授 中西 良文(NAKANISHI, Yoshifumi)
専門分野:学習心理学・動機づけ
現在の研究課題:学習動機づけに関する研究、学習方略に関する研究、協同学習に関する研究、大学教育改善に関する研究
【参考】
教育学部HP https://www.edu.mie-u.ac.jp/
教員紹介ページ(中西 良文) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1079.html
]]>受賞作品名: 木質粉体の湿式押出成形
受賞団体名: 三重大学 木質分子素材制御学研究室(三重県)
調査・研究分野、ソーシャルデザイン部門
【応募作品の概要】
木質粉体に水溶性セルロース誘導体を添加すると、湿式押出成形が可能となり、成形後乾燥によりオール木質成形品が得られる。セラミックスに用いる真空混練押出成形機を流用してシート、ハニカム、板、チューブ等の大量連続成形、クエン酸内添による成形品の水不溶化にも成功しており、新たな木材成形技術として期待される。
【アピールポイント】
木材は生分解性かつ再生可能な天然素材であるが、その加工は切削と接着をベースとし、自由な成形加工が難しい。木粉にセルロース系増粘剤を加え、湿式押出成形・乾燥により試作した「ウッドストロー」は、ウッドデザイン賞2018を受賞したが、吸水するなど課題も多かった。ここ数年の研究で、微粉砕木粉を採用、天然有機酸(クエン酸)添加による成形品の水不溶化機構を組み込み、セラミックス用真空混練押出成形機の流用を実証するなどして、様々な形状を創りうる新たな木材成形技術として十分期待できるレベルとなってきた。
授与式の様子(左)ミス日本みどりの大使 (右)野中寛教授
詳しくは生物資源学研究科HPをご覧ください。
https://www.bio.mie-u.ac.jp/org/master-15/dep01/course02/lab15/2023-112025.html
本学は、第17回グリーン購入大賞(スマートキャンパスとMIEUポイントの活動)に続き2度目の大賞受賞です。 グリーン購入大賞は、環境に配慮した製品やサービスを環境負 荷低減に努める事業者から優先的に購入する「グリーン購入」の普及・拡大に取り組む団体を表彰する制度です。
受賞式は、令和5年12月12日(火)に、コングレスクエア日本橋(東京都中央区)において行われます。受賞をしたSciLetsの活動については、12月6日~8日に開催されるエコプロ2023(会場:東京ビッグサイト 東4.5.6ホール)の三重大学ブースで紹介をします。
本件については、国際環境教育研究センターホームページにも掲載しています。是非ともご覧ください。
科学的地域環境人材(SciLets)育成事業の取り組みは、こちらをご覧ください 。
グリーン購入大賞の詳細については、グリーン購入ネットワーク(GPN)ホームページをご覧ください。
・自家受精の進化は、チャールズ・ダーウィンの先駆的研究以来、とくに雑種由来の倍数体の植物に多いことが知られていたが、そのメカニズムには謎が多かった。
・倍数体種ミヤマハタザオの自家不和合性遺伝子SCR/SP11の変異を修復することにより、進化を逆流させて、祖先の自家不和合性を復元することに成功した。
・牧野富太郎博士が命名した亜種タチスズシロソウの実験とあわせ、低分子RNAが倍数体種の自家受精の進化を促進した可能性を示した。
・今回の発見を栽培植物に応用すれば、従来困難だった植物種の交配が可能になり、育種への貢献が期待できる。
【背景】
横浜市立大学 清水健太郎客員教授(チューリッヒ大学教授兼任)と三重大学大学院地域イノベーション学研究科 諏訪部圭太教授らの研究グループは、自家受精する植物が持つ遺伝子の変異を実験的に修復して、自家受精を防ぐ祖先植物のメカニズムを回復することに成功しました。
異なる2種間の雑種由来の倍数体植物では他家受精から自家受精への進化が頻繁に見られることが知られていましたが、そのメカニズムは謎に包まれていました(図1左)。そこで、日本を中心に分布する倍数体植物ミヤマハタザオと、牧野富太郎博士が命名したことでも知られる亜種タチスズシロソウをモデル植物*1として、ゲノム解析と遺伝子導入実験をおこないました。その結果、他家受精植物では低分子RNAを介して片親ゲノム上にある自家受精拒絶システムが抑制されており、遺伝子が1つ変異しただけで自家受精が可能になることを明らかにしました(図1右)。この研究により、自家受精と他家受精のバランスを人為的に調節できる可能性が示され、これまで困難であった植物種の組み合わせでの交配が可能になるなど栽培植物の育種への貢献が期待されます。
本研究成果は、国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。
(日本時間2023年11月29日19時)
【論文情報】
タイトル: Dominance in self-compatibility between subgenomes of allopolyploid Arabidopsis kamchatica shown by transgenic restoration of self-incompatibility
著者: Chow-Lih Yew, Takashi Tsuchimatsu, Rie Shimizu-Inatsugi, Shinsuke Yasuda, Masaomi Hatakeyama, Hiroyuki Kakui, Takuma Ohta, Keita Suwabe, Masao Watanabe, Seiji Takayama & Kentaro K. Shimizu
掲載雑誌: Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-023-43275-2
本研究は、文部科学省科研費学術変革領域研究(A)「挑戦的両性花原理」、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業JPMJCR16O3 (CREST「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出」)、JSPS科研費22K21352(国際先導研究「植物生殖の鍵分子ネットワーク」)、スイス科学財団、チューリッヒ大学学内重点領域「進行中の進化」、チューリッヒ大学・東京大学・京都大学協力プログラムなどの支援を受けて実施されました。
本プレスリリースの本文は「こちら」
三重大学大学院地域イノベーション学研究科 教授
諏訪部 圭太(SUWABE Keita)
専門分野:植物分子遺伝学
現在の研究課題:受粉の分子メカニズム アブラナ科自家不和合性の分子機構 雄性生殖器官の分化・発達機構
今回は人文学部法律経済学科の野崎哲哉(のざき てつや)教授にインタビュー取材を行いました。今回のインタビュアーは、みえみえ学生広報室員(人文学部3年 裏川朱音)です。
-はじめに、野崎先生の専門分野・研究テーマについて教えてください。
野崎専門分野は、金融論・銀行論研究です。金融のあるべき姿、規制のあり方、金融業、とりわけ銀行の社会的役割について研究しています。
大学院では現代資本主義における銀行資本の行動分析からスタートしました。都市銀行の行動分析を行いつつ、日本の金融資本研究、企業集団研究へと広げていく予定でした。
しかしながら、大学院博士課程在籍時にバブル経済崩壊による銀行の経営破綻を目の当たりにし、研究計画は大きく変化していくことになりました。今から約30年前の1994年の三重大学への赴任後は、バブル経済崩壊後の金融システム不安への対応、とりわけ不良債権問題の研究へとシフトし、日本の金融界全体を巻き込んだバブルの負の側面を取り扱うことになりました。
一方、当初の研究計画の流れから、1996年以降の金融ビッグバンに伴う金融システム改革の研究、その中での銀行資本の能動的対応についての研究も並行して行いました。2000年代に入り、新自由主義的金融改革が企図され、「マネーゲーム」礼賛的風潮が蔓延する中、リーマンショックが起こりました。新自由主義的金融改革の批判的検討に加え、疲弊する地域金融機関の検討や協同組織金融のあり方の研究も行うことになりました。
こうした金融に関するネガティブな話題が蔓延する中で、今から20年前に、銀行の公的な性格、公共性に関する研究を行いました。さらに、最近では金融分野への情報技術革新の影響も含め金融業総体のあり方を視野に入れた研究を行うとともに、国が力を入れ始めている金融教育のあり方についても研究を広げています。
-研究をしていく中でおもしろいと感じるのはどのような時ですか。
野崎なかなか今の金融の研究をおもしろいとは感じにくいです。金融分野は変化が激しすぎて、ついていくのがやっとということが多いのと、そもそも知りたい情報やデータの多くが秘匿されており、マクロ的な金融動向の分析はともかく、個別の行動分析を行うことは非常に難しいです。
一方で、ちょっと危機感を持って何とかしなければならないと感じているのは、私たちの生活に密接に関係している「金融」という分野に対して、多くの人が極めて不十分な認識のままでいることです。
大学の講義で、「貸出によって預金を創り出す」という銀行の本質的機能(信用創造)の説明を行う際、多くの学生が最初は戸惑いを見せます。なぜなら、銀行は預かったお金を貸していると思い込んでいるからです。あるいは、「ゼロ金利政策」の舞台が短期金融市場(無担保コール翌日物金利)だということや、「マイナス金利」が日銀当座預金の一部に適用されていることなどは知りません。さらに恐ろしいのは、「インフレ」が良いことだと高校で教わっているという学生が極めて多いことです。実際、物価が上がることによって、現在の私たちは非常に苦しめられています。
さらに、「貯蓄から投資へ」の掛け声の下で、多くの国民が自らの資産を増やそうと投資に踏み出しつつありますが、金融収益の源泉を問わない投資行動が広がっていくことを懸念しています。つまり、自らの資産が増えた場合の収益はどのようにして生まれたのか、新たな成長分野に資金が回り、そこで生み出された利益の一部が投資家に還元されるのであれば何も問題はないのですが、流通市場でのキャピタルゲイン狙いの投資などの場合は、全体的な上昇相場を除けば、ゼロサムゲーム的な様相を呈することになります。上昇相場自体も、緩和マネーが市場に流れることで形成されている面もあり、経済全体がそれほど成長していない下で自らの資産が何故に増えるのかを真剣に考える必要があると思います。
今、金融教育の徹底が進められています。これまでお話したように、金融に関する知識・理解が不十分であるため、それが行われることは重要だと思います。しかし、金融教育の中身がどのようなものであるかが一番重要だと思います。今求められているのは、現代の経済の仕組みをしっかりと理解できる経済教育であり、その中での金融の役割をしっかりと理解してもらうことだと考えています。金融教育の中の投資に関する部分については、リスクをしっかりと教え、そもそも投資は余裕資金で行うものであることを徹底する必要があります。金融格差が拡大しつつある中、全ての人が投資によって資産所得を倍増するというのはあり得ないと思います。一部には投資に成功したという人や、実際に資産を増やしている人もいるかと思います。しかしながら、そうした人の個人的経験を全体に当てはめることはできません。「貯蓄から投資へ」というスローガンをイデオロギー的に受け入れ、多くの人が投資に躍起になっていく事態というのは非常に恐ろしいことだと感じています。
金融論というのは、お金儲けの学間ではなく、経済学の一分野であり、人間がいかに幸せに生きていくかを考える学問です。実学的なものと思われがちですが、今後いかなる人間社会を形成していくかを念頭に置いている点で、人間学的な側面が強いと思っています。
-今までで一番印象深い研究について教えてください。
野崎銀行の公共性の検討ですね。銀行法の第1条には「公共性に鑑み」という文言が含まれています。宇沢弘文先生の「社会的共通資本」の概念にも「金融」分野が含まれています。私たちが豊かな経済社会を営んでいくためにはなくてはならない分野として「金融」が、私的利益の追求の場と化し、社会を混乱させるような事態を何度も引き起こしている今、その役割を再確認することが必要であると感じています。
現代社会における金融の役割をしっかりと理解し、そうした役割の発揮を通じて社会課題の解決に繋げていくことが必要だと感じています。今、金融教育に関する研究も行っていますが、海外などでは「個人」にとっての最適な状態を目指して金融教育が行われ、そのリテラシーの獲得が目指されています。当然、「個人」にとってという視点も大切ですが、金融のあり方は社会全体への影響も大きく、その視点を踏まえた上での金融教育が必要だと思っています。残念ながら現状では、「個人」にとっての投資教育へという流れが強くなっており、あるべき金融の姿を考えさせる教育、経済にとって求められる金融の役割を第一に教える金融教育が必要だと感じています。
-現在の金融業界で最も課題であると考えている点を教えてください。
野崎金融という分野が担うべき役割に即した規制の枠組みを再構築することだと考えます。競争政策一辺倒でなく、歴史的経緯および現実をしっかりと見て、金融規制を強化すべきだと思います。グローバルな観点から日本だけが規制をすることは無理だという意見もありますが、金融の競争政策に伴う弊害は、国際社会でも問題視されている今、日本が率先して金融規制を強化するということも必要だと思います。
-今後の目標や予定を教えてください。
野崎当面の第1の課題は、私の研究の出発点であった銀行資本の行動分析をまとめることであり、メガバンクグループや地域金融機関の行動分析を行いたいと思っています。現代資本主義社会における銀行の役割をまとめるという課題ですね。
第2の課題としては、金融分野におけるイデオロギー的認識に関する検討、「貯蓄から投資へ」や「資産運用立国」というフレーズの問題点について検討していきたいと思っています。イデオロギー論については極めて難解な面もありますが、人々の現実的行動を規定する力をイデオロギー的認識は有しています。科学的イデオロギーをそれに対置させ、社会全体の歩むべき方向性と金融のあるべき姿を重ね合わせていきたいと思っています。
研究者情報
人文学部 法律経済学科
教授 野崎 哲哉(NOZAKI,Tetsuya)
専門分野:金融論、銀行論
現在の研究課題:
日本の銀行業のあり方、金融システム改革と銀行経営、現代日本の金融政策、
地域金融のあり方、協同組織金融、フィンテック、SDGsと金融、金融教育
【参考】
人文学部HP https://www.human.mie-u.ac.jp/
教員紹介ページ(野崎 哲哉) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/2265.html
]]>今回は、医学系研究科 生命医科学専攻 基礎医学系講座の村田 真理子(むらた まりこ)教授にインタービュー取材を行いました。今回のインタビューアーは、みえみえ学生広報室(教育学部1年 坂口莉菜)です。
-はじめに、先生の専門分野・研究テーマを教えてください。
村田社会医学系と言われる分野である環境分子医学の研究をしています。端的にいうと、人が環境の中でどのような影響を受けるのかというのを研究する分野です。職業病などがあるように、DNAやたんぱく質などの体の中にある物質が外からの影響をどのように受けて、病気になったり健康になったりするのかを研究しています。人と外からの影響との関係を調べるために、細菌やウイルスなどの生物的環境であったり、化学物質などの物理・化学的環境であったり、職業や宗教や人と人との関係などの社会的環境であったりなど様々な面から病気の現象を研究しています。また、病気にならないようにという予防を含めた健康な人にもアプローチしていきたいという側面がある研究分野です。
-研究をされていく中でおもしろいと感じるのはどのような時ですか。
村田実験をした時に、予想される結果がでた時には「やったー!」と言いたくなるような嬉しさを感じます。
-今までにそのような嬉しさを感じた研究にはどのようなものがありますか。
村田今、病気の予防に使えるのではないかとアミノ酸の一種であるタウリンに興味を持っています。タウリンは疲労回復などに良いとされてドリンク剤などに使われています。生活習慣病になる過程や進行中では、体の中に炎症が起こっており、その炎症をタウリンが抑えるといわれています。そのような特徴をもつタウリンを用いた動物実験が印象に残っています。発癌を起こす薬を与えたネズミにタウリンを飲ませると、0にはならなかったのですが、癌の発生数が下がりました。今まではタウリンの効果について疲労回復がうたわれていたり、ミトコンドリア病などの重い病気を患っている人たちの薬に使えることが承認されていたり、肝臓の調子が悪い人がタウリンを飲むと肝臓の機能を保護するために使われていました。そのタウリンが癌にも効く可能性があるのだとわかり、タウリンの新たな面を発見できた喜びを感じられた実験でした。
-研究を通して人々の生活にどのように関わっていきたいと思われていますか。
村田病気がどのような原因で起こるのかだけではなく、最終的には、病気の予防ができると良いと考えています。例えば、炎症を抑えるようなものを摂取することは、生活習慣病の予防に良いのかどうかなどを研究していきたいと思います。
-今後の目標や予定を教えてください。
村田動物実験から癌に効きそうだとわかったタウリンを老化が早く進むと言われる老化促進マウスに摂らせると、老化の進みが少しマシになります。この現象に関して2つの観点からさらに研究を進めてみたいと考えています。1つは、脳の中のアルツハイマー病の原因になるだろうと言われる物質が少なくなるかに関して今研究を進めています。もう1つは、共同研究者の先生がやってくださっているローターロッドというテスト(ネズミを回る棒の上に乗せた時にどれだけその上に乗っていられるかというテスト)で、筋肉や運動能力が高いとその時間が長くなります。このテストの結果からタウリンを飲ませた方が少し頑張れるという結果が出ています。この結果から筋肉や神経系などにタウリンが影響を与えているのかなと思っています。そこで、そのあたりのことをもう少し明らかにできたらおもしろいかなと考えています。もともと筋肉とかの保護作用はあると言われているので、あたりまえのことかもしれないけれど、なぜそのような結果になるのかを解明することをやっていきたいと考えています。
-最後に何か学生に伝えたいことはありますか。
村田私が講師をしていたときに、当時教授であった先生のもとにタイから胆管癌の研究をするために留学してきた方たちがいるのですが、教授になってからもその方たちとのつながりがあり、一緒に研究をしています。また、上咽頭癌の研究において、中国の広西医科大学と共同研究をしています。医学系研究科には、国際推薦制度という留学生への奨学金制度があり、これまでに8人の留学生の方が来てくださいました。このように、様々な形での交流を通して人の輪が広がっていったと感じているので、ぜひみなさんも海外へ出てみるなどしていろいろな人とのつながりをつくられるとよいと思います。
研究者情報
医学系研究科 生命医科学専攻 基礎医学系講座
教授 村田 真理子(MURATA,Mariko)
専門分野:環境衛生学
現在の研究課題:環境因子による発がん機構の解明に関する研究
【参考】
医学系研究科HP https://www.medic.mie-u.ac.jp/
教員紹介ページ(村田 真理子) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1777.html
]]>■特定の分子やイオンに応答して形状と機械的特性が変化するDNAデバイスを開発
■DNAの可逆的な構造変化を利用した化学-力学応答
■微細なDNA構造の変化が累積され、デバイス全体のトポロジーが変化
■刺激依存的なトポロジー変化を利用したマテリアル開発への応用に期待
概要
DNAは相補的な鎖同士が互いを認識し、会合することで、規則的な二重らせん構造を形成します。このような性質を工学的に応用すると、さまざまなナノ構造体や分子機械をDNA分子の自己集合によってつくりだすことができます。今回、三重大学大学院工学研究科応用化学専攻 鈴木勇輝 准教授、東北大学大学院工学研究科 川又生吹 助教、米国ケント州立大学 Hanbin Mao 教授らの研究グループは、DNAオリガミ技術と呼ばれる構造作製手法を用いることで、外部刺激に応答して形状や機械的特性が切り替わるDNAデバイスを開発しました。
研究グループが開発したDNAデバイスは多数のナノスケールの変形モジュールから構成されており、それらの曲げ変形が累積されることで、線状からコイルスプリング状へと収縮します。各モジュールの曲げ変形を、二重らせん構造と四重鎖構造という異なるDNA構造の形成・解離によって制御することで、コイル形状のトポロジーやバネ定数の可逆的な切り替えを実現しました。本研究成果は、生体分子を素材としたものづくり技術の発展とその応用展開を加速するものとして期待されます。
研究成果は2023年10月13日に「Nature Communications」誌に掲載され、同誌のEditors' Highlightsに選出されました。
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-023-41604-z
本プレスリリースの本文は「こちら」
三重大学大学院工学研究科 分子素材工学専攻/応用化学専攻 准教授
鈴木 勇輝(Yuki Suzuki)
専門分野:DNA/RNAナノテクノロジー、ナノバイオテクノロジー、生体分子工学
東北大学大学院工学研究科 助教
川又 生吹
米国ケント州立大学 教授
Hanbin Mao
■AlGaN半導体の半導体プロセスに導入しやすい加熱・加圧した水で基板剥離する技術を開発
■基板剥離メカニズムを解明
■本剥離技術はウェハーサイズの縦型デバイスプロセスが可能なため、高出力な深紫外LEDや深紫外半導体レーザーの実現につながることに期待
概要
名城大学理工学部材料機能工学科の岩谷素顕教授、竹内哲也教授、上山智教授、名城大学理工学部応用化学科の丸山隆弘教授、三重大学大学院工学研究科の三宅秀人教授の研究グループは、高光出力の深紫外LEDや深紫外半導体レーザーを実現するために不可欠である、縦型AlGaN系深紫外半導体レーザーの開発に成功。さらに、半導体プロセスに導入しやすい加熱・加圧した水で基板剥離する技術を開発し、その基板剥離メカニズムも解明しました。
今後の展開
縦型AlGaN系深紫外LEDや半導体レーザーは、デバイス・サイズを大きくしても均一に電流を流すことができ、1素子から1ワットを超える極めて高出力なレーザー光を得ることが期待できます。また、これらを集積化することで数十ワット~数百ワットの超小型光源の提供が可能で、バイオテクノロジー、皮膚病治療などの医療用途や、UV硬化プロセス、レーザー加工など工業分野への応用が期待されます。本研究の基板を剥離する技術により、高出力な深紫外LEDや深紫外半導体レーザーの実現につながるだけではなく、パワーデバイスやその他の技術への拡張も期待されます。
この成果の一部は、環境省「革新的な省CO2型感染症対策技術等の実用化加速のための実証事業/高効率・長寿命深紫外LEDの技術開発と細菌・ウイルス不活化および脱炭素効果の実証」、「JSPS科研費 22H00304」、「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」、「JST 研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム A-STEP 産学共同(本格型) JPMJTR201D」の支援を受けたものです。
本研究成果は、2023年 10月11日に応用物理学会の国際論文誌「Applied Physics Express」に掲載されるとともに、同誌の"Spotlights 2023"に選出されました。Spotlightsは、応用物理学コミュニティの興味を引く可能性の高い論文を特別に紹介するもので、例年、20数件の論文が選出されています。なお、Applied Physics Expressに受理される論文数は、毎年350件前後です。
DOI:https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/acfec9
本プレスリリースの本文は「こちら」
三重大学大学院工学研究科 電気電子工学専攻 教授
三宅 秀人(MIYAKE Hideto)
専門分野:半導体工学・結晶成長・オプトエレクトロニクス
名城大学理工学部材料機能工学科 教授
岩谷 素顕
名城大学理工学部材料機能工学科 教授
竹内 哲也
名城大学理工学部材料機能工学科 教授
上山 智
名城大学理工学部応用化学科 教授
丸山 隆弘
大麻と聞くと良いイメージはないと思います。しかし、それは大きな誤解です。実は、大麻という植物には種類があって、マリファナに悪用される品種・系統(タイプ)と有効活用されるタイプがあります。有効活用されるタイプ(産業用大麻)は、アサあるいはヘンプとも呼ばれます。アサ・ヘンプと聞けば悪いイメージはありませんよね?私たち三重大学大麻研究グループは、この有効活用される産業用大麻を研究する組織です。悪用されるタイプの大麻は研究しません。つまり、「良いものは良い、悪いものは悪い」をはっきりと分けて、良いものをより良くするために研究しています。
大麻と日本人のつながりは深く、縄文土器の模様に始まり、神社のしめ縄や横綱土俵入りのまわし、七味唐辛子、花火の火薬等、神事・伝統に使われています。近年では、有効成分CBD(カンナビジオール)が様々な場面で活用されるとともに、脳の病気であるてんかんの特効薬としてとても期待されています。また、バイオプラスチックや自動車の内外装、バイオ燃料等の材料にもなり、これからの産業においてもとても重要な植物です。しかし、戦後に制定された大麻取締法によって良い大麻も悪い大麻もすべて規制され、現在では全国で27名しか栽培者がいません。これでは神事も伝統も未来産業も支えることができません。
私たちは、日本の神事・伝統・未来産業を支えるべく、研究に必須の2種類の免許(大麻取扱者免許・麻薬研究者免許)を取得するとともに、産業用大麻の基礎・応用研究に取り組む総合研究拠点を三重大学に設立しました。戦後70年超の研究空白がある大麻という植物を農業・産業・学術の面から研究する国内唯一の組織です。良い大麻と悪い大麻をしっかりと区別しながら学術的に日本大麻を紐解き、日本人の持つ大麻に対する誤解を解くとともに、日本の歴史・伝統・これからの社会において産業用大麻が正しく活用されることを目指します。
【この記事は『三重大X(えっくす)vol.47』(2023年7月発行)から抜粋したものです】
水道の蛇口をひねると水が出る。私たちは日常的に水を使っていますが、実は安全で自由に使える水がこんなにもそばにあることは、それほど当たり前のことではありません。三重大学のある津市も、その水道水の4分の1の量をなんと、津市から50kmも離れた木曽三川の1つ長良川からもらっています。津市は実は、日常的に水不足の街なのです。
そして、日本の水利用量の3分の2を使っているのが農業用水です。水不足の街で田んぼの一つ一つに水が張られている様子は奇跡の風景と言えます。
水を送る施設には、ダム、頭首工(堰(せき))、水路など多くの施設があります。ところが、2022年に明治用水頭首工で漏水事故があり、一時的に下流に水を送ることができなくなりました。それによって、水を多く使っている農業だけでなく、中京地域の主産業である工業や発電所にも影響が生じました。
戦後急速に整備されていった水を送っている施設は、50年を過ぎて老朽化が進んでいます。適切に点検・補修をしていかなければ、事故が発生するリスクが高まります。
人々の生活を守るために、水を送る施設では点検のための計測技術開発、補修補強のための新材料開発が行われています。計測技術開発では、従来の方法以外にも、音、超音波、電磁波、光、熱といった様々な計測方法が使われています。まさに、新たな発想で新たな計測方法が生まれる技術開発のイノベーションの最中です。私たちも、超音波や光といった方法での計測技術開発を行っています。デジタル技術の発展とともに成長している若い人の柔軟な新たな発想が求められています。
【この記事は『三重大X(えっくす)vol.47』(2023年7月発行)から抜粋したものです】
みなさんの中にも腰痛に悩んでいる方々も多いかと思います。疾患の起こりやすい脊椎部分ですが、さらに症状が悪化すると、整形外科手術による障害部分の除去や変形した脊椎の整復が必要になってきます。手術の時に患部の状態や手術で骨を削ったことにより脊椎が不安定になる場合に脊椎インプラント固定が使われます。
脊椎固定術は有効な手法である一方で、金属製のためにヒトの骨や椎間板よりも剛性が高いことが原因となり、固定部分の骨が弱くなったり、周囲の脊椎の負担が増加する問題が起こる場合があります。
私はこうした課題に対して、工学分野で構造物の設計や加工に応用されている力学の考え方を、人間の構造部品である脊椎に適用することに取り組んでいます。
実際の手術を模擬した脊椎固定を施したシカの脊椎の力学試験を通して、これまで医師らの経験や勘に頼っていた脊椎手術や固定術の効果を定量的に評価する研究に取り組んでいます。
脊椎の変形挙動を調査するために、動物脊椎を用いた力学試験を行っています。動物脊椎は三重県で、獣害対策の一環で狩猟されたシカを使っています。これにより、ジビエ料理としてほとんど食用にならない脊椎部分を有効活用することにも貢献しています。
様々な方向に曲げたり回旋したりするといった、人間の身体の複雑な動きを再現した力学試験を行うために、特別に開発された6軸材料試験機を使って力学試験を行っています。得られた研究成果を元に新型のインプラント開発のアイデアを試したりもしています。
これまで国内の整形外科医と協力して研究に取り組んできましたが、最近はタイのコンケン大学病院との国際共同研究をはじめました。日本国内では動物の脊椎しか使えませんが、タイではヒトの脊椎を使った力学試験を準備しています。2022年の夏休みにコンケン大学の研究拠点に新型の6軸材料試験機を設置しました。これによって世界で唯一の、ヒト脊椎を使った脊椎手術に対する力学試験が行える環境が整いました。
今後は定期的にタイを訪れて、国内外の研究者と共同で研究を進めていきます。
【この記事は『三重大X(えっくす)vol.47』(2023年7月発行)から抜粋したものです】